中二病少女をUFOでさらった場合、地球人サンプルに適しているだろうか?

白神天稀

中二病少女をUFOでさらった場合、地球人サンプルに適しているだろうか?

『ようこそ我々の星間航宙機ユーエフオーへ』



 もう屋上でこっそり魔方陣なんて描かない。ヘリポートみたいな感覚で今、宇宙人に連れ去られた。



 右目の眼帯を外したら無機質なUFOの内装が眩しい。


 何より体毛一つないツルっとした青い宇宙人が一番直視出来ない。見た目の不気味さもあるけど、全身がちょっと発光してて眩しい。広げた両手もイカみたいに点滅してる。



『ところでお加減はいかがでしょうか? 椅子の座り心地とか、冷房の効き具合とか』

「は、はひ」

『はひ? ふむ、妙ですな。言語疎通器は彼女の母国語に合わせた筈ですが』

『艦長。おそらく地域特有のではないかと』

『あんな島国でもあるの!? 参ったなあ、最近イギリス英語とアメリカ英語を設定したばかりなのに』

「しし、失礼したッ! 『はい』をちょっと噛んだだけだ……」



 納得したようで宇宙人二人組は頷いてた。とりあえず彼らの機械? の翻訳で会話は通じそう。

 けどここで油断は禁物。立ち回りを上手くやんないと命の保証はない。


 身の安全、そして地球の平和を守るためには私が勇気を出すしかないわ……



 ――この『』モードで乗り切るしかないッ!



「お初にお目にかかる、異邦の隣人たちよ。ここまでの道のり、大変ご苦労であった」



 部屋で高速詠唱と一緒に覚えてて良かった! この『未知の存在との邂逅』パターン!


 ここはワタシが高貴な人物だって振る舞いから伝えつつ、それでいて友好的に接触しよう。それなら最悪でも解剖や人体実験は避けられる、はず……



『そのお言葉遣い、もしや高貴な身分の方でしたか! 失礼いたしました。厚きおもてなしのお言葉、光栄にございます』



 耐えたああああぁぁぁぁぁ! 宇宙人にも通用したわこの口上!

 クラスで使った時も皆から畏怖的なものを感じたし、やっぱり有効だったわこれ。



『つまりは上級市民……いえ、貴族という呼称が正しいですかな? 通りで我々のデータにないお召し物で』

「そうでしょう! この闇夜に煌めく十字架のチョーカーに、漆黒の姫君に相応しいドレス。我が力の拘束具たるベルトに包帯、それと眼帯! 俗人のそれとは違うの」

(全部『にしまむら』で買った洋服だけど)

『外傷は見られないようですが、どうして包帯と眼帯を?』

「それはこの身に余る力を封印する枷! 宵闇の如く世に紛れるための戒めよ」

『力、ですか。申し訳ございません、今のところ船内ではそういったエネルギーは観測されていませんが……』

「無理もない。俗人にも我が力を観測することは困難だ。この力は万人が拝めるものではないのだよ」

『なるほど、上流階級では風習や信仰的な意味合いでそういったお召し物を! 実に興味深い』

「フフフ、そうであろうそうであろう」

『いやはやかと思っていたら、ここまで高品質な衣類を作る技術があったとは!』



 ……ん?


 流石に宇宙人とはいえ侮り過ぎじゃない? 普通に蒸気以上のエネルギー使ってるじゃん。電気ってこの宇宙人達の星にないのかしら?



『それか観測出来ていなかっただけで地下に帝国を築かれていたとか?』

「そ、そうだな。ある意味、我が王国は目の届かぬ暗黒に身を潜めている……」

『通りで! いやあお見逸れしました。てっきりまだ動物に荷車を引かせている文明レベルかと』

「はへ?」



 待って待って、この宇宙人たちもしかして数百年前の話してる? 今の地球はそんな……まさか。



「き、貴殿らはその、望遠鏡のようなもので地球を観察されていた、とか?」

『ええその通りにございます。と言いましても、我々の星の素材では少ししか観測できないものですが』



 や、やっぱりそうだ! これ見て観測してたんだ!


 今望遠鏡から見えてる星の景色って、何百何千年前の光が届いて見えてるって聞いたことある!

 つまりこの人達が見てたのは、なんだ。中世とかそのぐらいの時代の景色見て地球に来たってことじゃん!



『もしや下級身分の労働者を働かせて、上級の民は地下におられるとか?』



 どうする? ここでの答えは慎重に選ばないと。


 下手な嘘はつけない。でも奴隷とか使ってる野蛮な低発展社会とか思われたら――地球ほし消されるぅ!



「あ、あれは全て使達だ。地表で作業をする重要な任を負った有志の者たちである」



 あくまで労働者で、重要なポジションってことにしとこう。それなら人権意識とかで怒られない。欧米だったらこれで大丈夫な気がするし。


 さあ。鬼と蛇、どっち出る?



『それはなんと! 素晴らしいですねぇ』



 耐えた。咄嗟についた嘘がさっきからポンポン信じてもらえるじゃん。

 これ適当言ってもバレないんじゃ?



『では地表で労働されている彼らも決して奴隷の類いではないと』

「い、いかにも! 」

『なるほど! ですが服装や装備は比較的質素に見えますが……』

「それは敢えての選択というやつだ! 彼らは実利と倹約を率先して推し進める民だ。最新設備は地下で使って欲しいとの意思を尊重している。我が王国のため粉骨砕身する彼等の意思を!」

『そこまで考えられているとは! いやはや、この惑星の社会は随分とご発展されていますね。是非一度かの人々をお目に――』

「そそそ、それは別の機会に! 我々とて、異邦の客人を迎えるならば相応の準備をさせていただきたく……」



 って勝手に地球代表みたいなこと言っちゃった!

 どうしよ、こっちは使い魔の一体も召喚とか出来ないよ? 私の言うこと聞くのなんて近所の公園にいる小学生ぐらいだし!!


 どうしよどうしよ、ちゃんと迎えられないと殺されっ、ていうか地球がパージされ――



『確かにその通りでございますね!』

「……うぇ?」

『むしろご無礼にも突然訪問してしまったのは我々の方です。この星間航宙機も長く地球に滞在できる仕様ではございませんし、本日はこの辺りでお暇させていただきます』




 ――気付けば青い宇宙人もUFOもいなくなってて、私は自作の魔方陣に尻もちついてた。



「あ、戻されてる」



 これも一種の力の覚醒。それか闇の幻影に惑わされてた……と思ったけど、あの異邦人との邂逅は本当にあった出来事らしい。


 空には戦闘機が描いたような白線でミステリーサークルが作られてた。ちょうど私が描いた魔方陣とそっくりなものを。



「……ちょっとでもおもてなしの準備、しとこっかな」



 いつもやってる『紅月の暗黒姫』として闇の侵略軍を率いる練習。それに手料理を作るメニューも一つ加えても良いかもしれない。



 ※



 私は少々、惨い事をしてしまったかもしれない。


 星間航宙機の操縦桿を握りながら、ほんのりとした後悔と共感性羞恥に襲われていた。



「艦長、話合わせてましたけど……あの子、ごく普通の一般階級の少女でしたよね?」

「まあ、そうだと思ってたんだけどね」



 地球の社会が今どう発展しているか聞きたくてサンプルに拾ってきた子が、どうやらごく普通ではなかったらしい。


 なんか知らない情報しか話してこなかったし、服装から口調まで何もかもデータにある『ニホンジン』という民族の文化体系に合ってなかったからな。



「自分を高貴な身分だと思い込んでるなんて、何かの奇病でしょうか?」

「いや、あの感じ多分焦ってたんじゃない? ほら、地球人って宇宙人が侵略してくるシチュの娯楽映像観たりすんじゃん」

「あ、それで! だから上手いこと身を守ろうとあんな嘘を」

「最初に上手く友好的姿勢を示せなかった我々も悪いよ。確かにいきなり連れてこられたらビビるよね」

「我々としては、彼らでいう『街頭インタビュー』的なノリなんですけどねぇ」



 そこもちょっと可哀そうなことをしてしまった。何より話してるこちらが恥ずかしくなってきて、あれ以上話していられなかった。適当に話合わせるのも限界だったし。



「そもそも来るので精一杯な自分達が攻め込むことなんて出来ないっすよねぇ」

「燃料も物資も兵力も足らん。仮にそのつもりならこんな単機じゃなくて空母でも持ってくるさ」



 まあ見たこともない文明の乗り物を見たら警戒するものだろう。無理もない。



「もうちょっと星の調査したかったけど、ここまで警戒されるなら次かなぁ」

「そうですねぇ。もうちょっと文明発展待つのはどうです? 我々の存在が分かる程度の証拠を少しづつ出して」

「それ待ってたら滅んじゃうよ文明」

「異星あるある~。目を離したら文明滅んでるやつ~」

「それに失敗したじゃん。先輩が落とした『アンティキティラ島の機械』ってやつ。アレとかあんま意味なかったし」

「あー、あの天体計算器ですか。先輩落ち込んでましたよね」

「その上、地球人が自分たちで作ったピラミッド? ってやつが宇宙人製だって言われてて涙目なってたし」

「ですです。『なんだよあの技術、なんだよシュメール人とか言うハイスペ共〜』ってヤケ酒してましたよ」



 まったく不思議な文明をもつ星だ。叶うなら次こそはまともに会話してみたい。ごくごく普通の地球人と。



「じゃ、百年後こよっか。それまで残ってると良いね」

「ダメだったら今回も自然調査で我慢しましょ」



 期待と疲労のこもった息を吐いて、また操縦桿を握り直した。

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中二病少女をUFOでさらった場合、地球人サンプルに適しているだろうか? 白神天稀 @Amaki666

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