KAC20246トリあえず

綾野祐介

KAC20246トリあえず

「ちょっとエリカ、聞いてよ」


 まただ。深雪は気が多い。とっかえひっかえ男を変える。付き合う男が切れたことが無い。というか重なっているので途切れない。


「またぁ?今度は何よ」


「もう飽きた」


「え、だって公之君とはこの間付き合いだしたばっかりじゃん」


「だって、もう飽きたんだもん。それでね、隆志なんかどうかなって」


 公之は先日私が深雪に紹介した大学時代の友人だった。面食だったので美人の深雪とは合うんじゃないかと思ったのだ。


 と言うか出来れば隆志に深雪の気が向かないように、とっかえひっかえ男を紹介していた。


 隆志とは高校のころからの知り合いで、友人の中でも仲のいい方だった。ただ恋愛感情に発展したことは無い。それでも深雪の毒牙には掛けられたくない大切な友人だった。


「隆志は止めときなよ、詰んないやつよ」


「何々?エリカは隆志が好きなの?」


「違うわ。高校のころから知ってるけど、気の利いた趣味も無いし実家かお金持ちでも無いし、特徴のない男よ」


「へぇ、エリカがそんな風に男の子の話をするなんて初めて聞いた気がする。そっかぁ、エリカは隆志が好きなんだ」


 出た。深雪は自分の知り合いの子が好きだと判ると絶対に自分の物にしないと気が済まない。今まで私の恋愛対象は居なかったこともあって一度もターゲットになったことは無いけど隆志はロックオンされたようだ。ただ本当に今のところ隆志は私の思い人ではない。


「好きじゃないわよ、あんな奴。性格悪い陰キャだし」


「でもそれなら尚更私が落としても問題ないじゃん」


「それはそうだけど深雪の為に言ってんの、判る?」


 隆志とは異性の中では一番仲がいいかも知れない。だからこそ隆志の内に秘められた異常性、影の部分に少しだけ気が付いていた。隆志は普通に見えて多分危ない奴じゃないかと思っている。


「トリあえず、隆志は貰うから」


「貰うも何も私のじゃないし」

 

 それから珍しく隆志と深雪は一年以上も付き合うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20246トリあえず 綾野祐介 @yusuke_ayano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ