自信と覚悟 エピソード4 あの時、

鈴木 優

第4話

     自信と覚悟

                 鈴木 優

      エピソード4 あの時、


 週末のいつもの光景、仕事を終えてからあーちゃんを迎えに行く いつもの笑顔がある でも、その日は、少し違っていた 普段ならただ通り過ぎていた自販機でコーヒーを買ったんだ 

 あーちゃんが、そこから見える飛行場の一列に並んだライトニングを見たいと言ったからだ

 いくつも並んだライト 本当に綺麗だった 

 遠くの上空には今正に、着陸しようとしている飛行機が見える 

 いつもならそれを前後にしか見ていなかった 

 二人だけ 車に寄り掛かり、それを見ていた

 アレがなかったら、自販機に寄らなければ、あんな事は起こらなかっただろう

 通りの少ない裏道の交差点 ただ普通に、本当普通に通過するはずだった

 何が起こったのか?数秒?数分? 遠くから救急車のサイレンが微かに聞こえる

『おい大丈夫か もう直ぐ救急車が来るからな』 

 あーちゃんの姿を見つけ手を握った

『あーちゃん、あーちゃん大丈夫か』

 頷きながら『優君も大丈夫』

 同時にサイレンの音が聞こえなくなっていった

 どれ位たっていたんだろ 気がつくと病院のベッドの上 父親と母親が何かを話しているのが見えた 

『お〜優 気がついたか』

 声をかけた父親は、少し心配と怪訝そうな顔をしていた

『明美は、あーちゃんは?』

 起きあがろうとしたら、フラフラと同時に目眩のような感覚がきた

『心配なのは分かるけど 今は辞めとけ』

 事故の様子、今、あーちゃんの病室から戻って来た事、向こうの家族が唯ならぬくらい怒り狂っている事、そしてあーちゃんの怪我の様子

 幸いにも、俺もあーちゃんも大した怪我では無く大事を取って今晩は、一応入院になった事

 父親曰く、警察の話では農家のトラクターが信号を無視して車の後方にぶつけて、その弾みで路外に落ちたらしい 横転しなかったのが幸いだったらしい

 そう言えば、あの瞬間 右側から何かが接近しているのが見えて、咄嗟にハンドルを斬ったのを思い出した

 トラクターのオッちゃんが直様、近所の家から救急車を呼んでくれたらしい

 翌朝、聞いていたあーちゃんの病室まで点滴をぶら下げながら行ったが姿が見えない 一つ上の病室に戻る為エレベーターの前で待っている ドアが開いて中からあーちゃんの姿

『無事でよかった、もし何かあったら俺〜』

 と同時に

『優君、よかった〜 私も何か...』

 お互い、点滴をしたままのその腕で抱きしめていた

 あーちゃんは午前中に、俺は夕方に退院する事が出来た

 翌日に父親の車に乗って、あーちゃんの家に謝罪に向かったが、玄関にさえ入れてもらえなかった

 インターホン越しに二人して頭を下げて帰ってきた

 帰りしな、整備工場に寄ってもらい、車を見に行く事にした

 車を見て思った、ほんの少し早かったら俺は直撃を受けていただろう 怪我もこれでは済まなかっただろう事を知った 車は修理さえすれば済むが、あーちゃんや向こうの家族には本当に申し訳ない感じだった

『もう会えなくなるかもしれない』

 父親が、そんな気持ちを察してか一言だけ呟いた

『優 忘れろ そして以前同様暮らしていけ』

 あの言葉を聞いた瞬間、事故った時の怖さと、これからのあーちゃんとの事を考えさせられ、何となく涙が出てきた

 翌週からは、仕事にも復帰でき身体の方も順調に戻っていた 来週位には車も戻ってくる

 ただ、あーちゃんとの連絡はとっていなかった

 共通の友達の話では、大学も休学中で家から出してもらえて無いらしい 誰が電話しても出してくれないとの事 特に二つ上の兄貴がネックになっているらしい

 子供の頃から知ってはいたが、俺とは肌が合わないのを感じていた それに俺の方がガタイがよく態度もデカい 決定的だったのは小学生の相撲大会で、あの兄貴を負かしてしまったのが悪かった それ以来、転校する迄 口を聞く事さえされなかった

 三人兄弟の末っ子が、あーちゃん 兄貴としてはこんな奴が妹の彼氏なんだから、オマケに事故って怪我までさせられて これが拍車をかけた

 実際、あーちゃんからも聞いていた

『何で優なんだ?あんな後ろの車両に乗っているような奴と、それに大野の後輩で、アイツが事件起した時も一緒に居たそうじゃねえか』

 そうあの事件とは、ボーリング場で輩に絡まれ一人で三人を相手にし、大乱闘をして警察沙汰になり退学させられた話し 確かに俺も居た そして全てを自分一人で被って退学した事を俺は知っている 決して美談では済まない話ではあるが、少なくても周りに居た者は皆、卒業出来たのだ あの時先輩は連行される際に人差し指を口に当てて皆にニコッと微笑んでいた

 俺が辞めた時は、物凄く怒られた あの時の先輩の気持ちを踏み躙ってしまったからだ

『優 お前何で辞めたんだ 学ランだってやっただろうがァ だから後の事をお前に任せたんだぞ』

 当時、俺達が乗る路線とその他の路線で、日頃から揉め事が絶えず毎日のように駅のトイレではイザコザが絶えなかった

 あの時、正直殴られると思い覚悟していたのを今でも覚えている でも先輩は、バイトなんか辞めて俺んとこ来て働けとだけ言って迎えてくれた

 そんな事もあり、あーちゃんの兄貴や周りは余りよく思って無いようだった

 アレから約一ケ月 あーちゃんからも俺からも連絡はしていない

『元気にしているのかなァ〜』

 車に乗って、ただ行ったり来たり

 子供の頃に一緒に遊んだ公園の噴水を冬支度をする作業を暫く見ていた

 一人では、少し広く感じるベンチで

 

 

 

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