第13話
フィズが使っている無料アプリは、不具合が多く、開かないとメッセージを受信しないことが多々ある。だからあの日から何回も開いて確認しているけど、未だに目的の人物からは受信してなかった。
今日も開いてみると、両親や友達からしか届いていない。両親から聞いたのだろう。「入学おめでとう」やら、フィズが魔法を習い始めたことに対する驚きが綴られていた。
簡潔に返信すると、スマホを閉じる。
(お兄ちゃんどうしたのかな……)
ごろんとソファに寝転がる。
兄はフィズと頻繁にやりとりをするわけではないが、それでも意外とマメなので、節目の連絡は忘れない。
前に手紙をくれたので、もしかしてと思ったが、今朝、郵便受けを覗いても手紙はなかった。
今日は入学式なのにどうしたのだろうか。
いつもは気にも留めていないが、来ると思った連絡がきてないとなんだか不安になる。
(めんどくさいなぁ……)
悩むのはあんまり好きじゃないし、それが兄のことなら、なんか気恥ずかしさもある。フィズは気付いていないが、そういうのを纏めて「面倒くさい」と言う癖があった。
足をパタパタと動かして、ふて腐れる。
今日は学園の入学式だ。意外に浮き沈みの激しいフィズだが、あの日学園に行くのが億劫になった気持ちはそのまま続いている。
というのも、魔物が市街地に出、それを民衆が退治していたというニュースで持ちきりだからだ。
幸い、フィズが映っていたのは後ろ姿だけだったが、誰かが見ていたらと思うと、気が気でない。
目立つのが嫌いなわけじゃない。褒められたら嬉しいし、コニーに会った時はちやほやされるのも悪くないなと思った。思ったが、次に魔物が出た時、同じように戦えるような期待を寄せられても困るし、授業中に目立つのは冗談じゃない。
力は出し惜しみしていたい。本当は出来る子なんだ、とかもいらない。
「なんにもせずとも世界中があたしをチヤホヤするようにならないかなぁ」
「なにそれ」
ぼやくと、後ろからレオーネが答える声がした。
まさか聞かれていると思わなかったので恥ずかしい。顔を赤くさせると、フィズは指先をもじもじと動かした。
「生きてるだけで甘やかされたいじゃん……?」
「う、うーん……」
レオーネが首を傾げる。どうやらそうは思わないらしい。
謙虚だなあ。そう関心すれば、レオーネは苦笑してフィズの手元を指した。
「フェリオから連絡?」
「ううん。友達とかお母さん」
否定すると、起き上がる。眉を下げるフィズの頭を撫でると、レオーネは指先を鳴らした。
ぽんという音と共に、箒が出てくる。
「じゃ、そろそろ行こうか」
戸締まりをすると、促されて箒に跨がる。レオーネがその後ろに跨がると、箒が宙に浮いて、一気に空へと飛んだ。
独特の浮遊感に一瞬ひやりとしたが、直ぐに慣れた。飛行機にも乗ったことがないフィズは、空から景色を見るのは初めてだ。
目を輝かせると、後ろでレオーネが感心する。
「すごいね。俺、初めて乗った時は怖かったけどな」
「楽しい。最初は、ジェットコースターみたいでびっくりしたけど」
「上下に移動するとそんな感じになるから気をつけてね。ほら」
レオーネがそう言うと、箒は高く上がって、それから急降下する。声を上げて喜ぶフィズを見て、レオーネは目を瞬かせた。
「全然怖がらないね」
「レオくんもっと。もっとして」
箒を握っている腕をちょいちょいと突いておねだりする。だが、レオーネは首を振った。
「危ないし酔うからなあ」
「ケチ!」
むくれるフィズにあははと笑うと、レオーネはフィズの肩に顎を乗せる。
重いし痛い。抗議しようと後ろを見ると、優しい瞳と目が合った。
「元気出た?」
フェリオからの連絡がなくて、落ち込んでると思われたらしい。ブラコンみたいで恥ずかしい。顔に熱が集まるのを感じて、フィズは話を逸らすことにした。
「そ、空飛ぶ時って、箒なんだね」
「二人とかだと、なにか使うほうが楽なんだ。箒だけ浮かせたらいいからね。それに自動車とかでもいいけど、俺免許持ってないし、あと目立つよね」
なるほど。確かに、箒ぐらいだったら、遠くから見てもさほどだけど、自動車が空を飛んでたらびっくりする。
そこでふと、フィズが通う時はどうすればいいのだろうと思った。フィズはまだ箒を浮かせられない。その疑問が通じたのか、レオーネはにっこり笑う。
「明日からは歩いてね」
「ええーっ」
分かりやすく頬を膨らませるフィズに、レオーネはけらけらと笑った。
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