第5話 肝っ玉の小さいご主人
フジン・ガイが倒れた頃、ルカことピストルは担当地域のドス級を倒して一息入れていたところだった。
「
「ようし!上がりだぁー!」
湧き立つゲイザー達に、ピストルは溜め息を吐く。
「こんなんじゃ、烏合の衆よね」
少なくとも、この戦いを生き延びた者に向けて言うような言葉ではない。
メナスが設立されてから早十年。
禄に訓練されていない民間人を登用し続けるという余りにも組織として杜撰な対応が許されているのは、上層部の脳が腐りきっている奴らが牛耳っているからだとルカはそう考えていた。
でなければ、訓練に予算を使わないなんていう余りにもおかしい組織運営はしない筈なのだ。
無論、それを行える人材が少ない上にそういった人は未だ現役として活躍している為、時間が足りないのもある。
だがしかし、ありふれた夢を叶えようとして死んでいくという光景を当たり前にしている事は、ハッキリ言って異常かつ悍ましいものだった。
かと思えば普通に給料はしっかりとボーナス付きで高給。
扱いはほとんど肉壁。
正直、ルカはこの現実に辟易していた。
恐らくだが、最高戦力たるガロンソー以下レジェンドヒーロー達がいれば、木端である自分達がいなくてもなんとかなるとでも思っているのだろう。
「どうせ、アレも見た目を見繕うだけのプロパガンダだけの存在でしょうね……」
あの頃の夢見ていた自分が懐かしい。
ピストルの視線の先、上空のビート板のようなものが空を飛んでいた。
そして正式名称【エアビートボード】に乗る18mもの巨体を持つ鉄の巨人達は降下を始める。
それに気付いたワイバーン達が上空にへと舞い上がり、火炎放射や炎を弾丸として放つ火球で迎撃しようとする。
しかし、巨人達の持つシールドに防がれ反撃に右手に保持させているライフル、俗に言えば【ビームライフル】の引き金を引くことで熱線がワイバーンを射抜く。
「よしっ」
ワイバーンを射抜いたパイロットはガッツポーズをしつつ機体を地面に着陸させる為に機体の体勢を変え、各所にある姿勢制御用のバーニアで軟着陸する。
「へへっ、見たか!これがブレッサーの力だ!」
モノアイを輝かせる全体的に太ったような機体、【ブレッサー】は
SMU……特殊機械科部隊と呼ばれるメナスの特殊部隊は、元々この世界で運用されていたものの、平和なご時世では大きな金食い虫であったMeDを対異界獣に特化させて配備している部隊であり、ゲイザーらヒーロースーツへの適性がなかった者達の吹き溜まりでもあった。
ドス級やそれ以上にデカい異界獣に対抗するべく設立されたこの部隊の実績はそう多くないが、年々異界獣の出現する種類の増え方のスピードから予防策として設立されたのだ。
吹き溜まりとはいえ、ゲイザーらと違ってしっかりと訓練を行われたこの部隊は確実に実力のある強者であった。
「……MeD、やっぱかっけぇ!」
それを遠目に見ていたゲイザーにしてはカラフルな戦隊の一人、【ゲイザーレッド】は目を輝かせていた。
「なあなあ!やっぱあのクソダサいスーパーロボットよりもアレが良いよな!?」
「ネットにそんな事を言ってみろ、叩かれるぞ」
レッドの言葉にゲイザーグリーンは気怠そうに突っ込む。
そしてゲイザーブルーが二人に「真面目にやりなさい!」と叫ぶ。
「「へーい!」」
「い、いつものですね…」
「そうね、おじさん」
その光景をチラ見しつつ、ワイバーンの頭蓋を一撃で破壊するゲイザーイエローとゲイザーホワイト。
彼らは【観測戦隊ゲイザーズ】。
突出した能力をチームワークで活かすというコンセプトの元、この世界の戦隊は編成されている。
いつの時代も数の暴力は多くの敵に有効的な暴力であるから。
そんな彼らの活躍の元、数時間後には復興作業に移るゲイザーや土木関連の者達の姿が繁華街に現れるのだった。
ーーーー
「目が覚めましたか?」
朝日の眩しさに目が覚めて開幕、そう言われて視線だけ横を見ればクナがいた。
「しばらく激しい運動は控えてくださいって、お医者さん言ってました」
「お、お前、喋れて…!?」
突然の事に、俺は跳ね上がる。
だが点滴の針がグリッと鈍痛を引き起こし、俺は悶える。
「暴れちゃ駄目だって」
「ラオ?」
そんな俺を抑えつけるデカい腕はラオだった。
「俺もクナちゃんが急に喋れるようになったのは驚いたよ。しかも電話越しだし」
「なっ、電話までできるように?」
「まだ、思い出せない事はあるけど記憶にはあったから」
そう言うとミカンを剥いて俺の口に押し込む。
戸惑う俺とラオだが、「ん!」と更に押し込んでくるので大人しく口の中に入れる。
程よい酸っぱさが口の中に広がり、よく咀嚼して飲み込む。
そしてまたクナにミカンを押し込まれ、食べての繰り返しを数回やってようやくミカンを食べきる。
「………夫婦かな?」
「おい、その手に持ってる携帯を捨てろ」
ラオがとんでもないことを言い放ちつつ、携帯を耳元にあてようとしていたので俺はガッツリ彼の腕を掴んで止める。
「あっ、待て――!」
「うおっ!?」
だが、ベッドの上で右足に力が入らずバランスを崩した俺はベッドから転がり落ちかける。
床に頭が行く。
そう思った瞬間、眼前に足が差し出され俺の落下は食い止められる。
「何やってんの、アンタ」
「その声は…ルカか」
「ちょっと、いつまでアタシの足に息を吹きかけるつもりよ、気持ち悪い」
「だったら右足動かせないから補助してくれませんかねぇ!?」
「……しょうがないわね」
そう言うと蹴り上げる感じで俺の頭を上げさせて、ベッドの上に座らせる。
「で、そんな情けない姿を晒してたには理由があるんでしょうね?」
そう問い掛ける彼女に、ラオが答える。
「右足で必殺技を酷使したからマド切れだって。生命維持の分まで使っちゃってさ」
「馬鹿でしょ…」
「バカとは失礼な。それしかないからやっただけだ」
「だから言ってるでしょ!アンタには無理だって!そうやってまた怪我するつもり!?」
食いかかってくるルカに、俺は気圧されるがガラララッ、と病室の扉が開いて看護師と医者が現れる。
そして、笑顔で言い放った。
「「病室では静かに」」
「は、はひ!?」
珍しく、ルカが慌てふためいている所を見たな。
その事に笑っちまう俺に、ルカはギロリとコチラを睨んでいた。
「助けてクナ」
「肝っ玉が小さくありませんか?ご主人」
「ご主人って何よ!?」
「助けられたご恩はしっかり報いなければならない。恩返しは当たり前では?」
「いやだからなんでご主人呼びなのって――」
「君、少し黙ってくれるかね」
「アッ、ハイ」
ルカに向けられていた笑顔が今度は俺に向けられ、俺はすぐさま姿勢を正して医師の検診を受けるのだった。
この後、俺は医者から松葉杖を渡されるのだがクナがご主人呼びで付き添ってくるので、あらぬ誤解をされ頭を悩ませることになるがそれはまた別の話。
俺は決してロリコンではない。
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