第11話

 白の国での出来事を神楽へ報告をする。


「復興できそうなのね、良かったわ」


 翔が神楽に学校への疑問を今更ぶつける。


「簡単に編入したり退学したり自由過ぎないですか?」


「あなた達の世界と違って学年もなければ入学と卒業の概念も無いもの」


 神楽は首を傾げる面々に説明する。


「あなた達は学校として使っているけどここは魔法の研究機関なのよ、学ぶ場所としての一側面をあなた達は利用してるだけ、カリキュラムも中身も希望のレベルのを受けるだけで授業の中身は基本的に似通った内容を何度もやってるのよ、一通りマスターしたら研究者になるか自分の国に帰って職に就く、全部自由なの」


 納得したようなしてないような表情の面々は神楽に急かされるように部屋に帰される。

 たった数日だが仲良くしてた一人が国に帰り空いたベッドが妙に物悲しい。


「急転直下な話だったな」


 翔が振り返りながら呟く。不純な思いが混じりつつ猪尾が惜しそうに言う。


「いやぁ、高貴な人と交友なんて地球じゃ味わえない体験だったのに、もっと会話してお近づきになるべきだったなぁ」


 無責任な発言を聞いていた黒姫の冷たい視線に気付き猪尾が冗談だと笑う。


「今生の別れじゃないんだから深く考えないの」


 西園寺が横になりながら話をぶった切りそれに河内も同意する。「ちぇー」と猪尾はベッドに倒れこむ。


 翔も横になる前にと残った黒姫をチラッと見ると見つめられていた。


「どうかしたのか?」


「いえ…ミナさんはなんか私に似ていたから…多分」


 少し考える素振りをして黒姫も横になる。それを見て翔も横になる。

 翌日、それぞれの授業へ向かう中で翔は黒姫に呼び止められる。


「皆の前で茶化されるから…」


 言い辛そうに少しモジモジする様に翔がドキっとする。


「浜松君、私、実は今までの生活とかなんて正直どうでも良かった…でもミナさんと会って、話して、私も向き合わなきゃいけないって思ったから…皆で帰ろうね」


 真面目な雰囲気に黙って頷く。心の中ではツッコミをしたい感情が叫んでいた。


(死亡フラグだろとツッコミ入れたら怒るよなぁ…)


「大丈夫…?」


 誤魔化すように翔は笑い授業へ向かうことにする。


 夕食時、全員が良いタイミングで揃って朝に黒姫が話していた元の世界に帰れたらの話を翔がそれとなく切り出す。


「元の世界ねぇ、いつもと同じなのかしらね…あ、精霊とはもう会えないのかな」


 西園寺が精霊の言及すると暗い雰囲気になる。


「あー、そっかそうだよなぁ、オレそこまで考えてなかったわ」


「だが帰らない選択はありえないだろ?」


 帰るのやめようかな等と言う猪尾に河内が呆れながら否定する。


「ファンタジー世界でまったりライフしたっていいじゃないか、今更元の世界に未練なんて…」


 猪尾が周りの様子にハッとして口を塞ぐ。


「死んで転生したならまだしも勝手に呼ばれて…私は、逃げないから」


 黒姫の発言に猪尾が固まる。


「すんません、浅い考えしてました」


「黒姫大丈夫?なんか凄い怖いんだけど…」


 西園寺も少し引いていた。河内が翔に何かあったな?と耳打ちする。話を切り出して雰囲気を悪くしたことを謝りながら全員食事を済ませた。


 その日、翔は予知夢にも似た悪夢にうなされる。目の前には横たわり息絶えた仲間や知り合い達の亡骸、そして巨大な影に一人立ち向かわねばならない状況、夢と自覚しながらも足がすくんでなのか動けずに訳も分からず影に飲まれて終わる死を予知するかのような夢を見た。

 嫌な汗と共に起き上がる、まだ夜だと言うのに眠気も吹き飛んでいた。

 眠れない嫌な気持ちを振り払うようにベッドから起きて一人着替え部屋の外に出る。体を少しでも動かしてこの言い様のない不安を取り除きたかった。

 一人中庭に出て木刀の素振りをする。最初にここに来た時のアキトの言葉を思い返す。


(アキトさんは全部知っていた、俺に足りないものも、何をすべきなのかも…俺はまだ俺自身の実力も敵の正体も知らないのに勝てるわけない!)


 強くなりたいと一心不乱に木刀を振る。


(皆を守る…違う、皆と力を合わせるんだ)


 何度も何度も嫌な気持ちを眼前に描き振り払うように…

 やがて朝日が雲を照らす。


「悟りは開けた?」


 神鳴に声をかけられ翔は首を横に振る。


「わからない、俺はアキトさんみたいに強くないし敵がどんなのかすら…」


「敵…そうね、そろそろ知るべきね」


 神鳴が城のような校舎を指差す。


「私が今まで見た奴の最大サイズはあれくらい、バラつきあるけど」


「デカいな…どうすんだよそれ」


 神鳴が翔の呟きに真顔で尋ねる。


「やっぱり怖い?」


「当たり前だ、もし本当なら普通の人間じゃ勝ち目なんかないさ」


 翔は木刀を下ろして座り込む。


「自分を知り相手を知れば百戦危うからず、怪獣相手には通用しなさそうだな」


「そうね、神螺しんらはその怪獣に変化するわ、そして無敵よ」


 敵の名前と無敵と聞いて翔が呆れる。


「無敵ならお前も不死で無敵じゃないか」


「そうね、奴は傷を負わない、瞬時に治すわ」


 翔は様子を想像して呟く。


「致命傷を与えられないから無敵か…」


 神鳴が頷く。翔が質問する。


「代償とかないのか?ほらお前は周りの命吸うだろ?」


「今までで集まった情報はそれだけ」


 神鳴がそこまではわからないと首を横に振る。残念そうに翔は立ち上がりまた木刀を振る。


「朝食までやらせてくれ、なんかモヤモヤして仕方ねぇんだ」


 やれやれと神鳴がその場を去る。神鳴は戻る途中で翔の様子を見つめる黒姫に出会う。


「黒ちゃん、なーにみてるの」


「あ…その…浜松君がいなかったから皆で探してたの」


「みんな?」


 どうやら全員で朝方から居なくなった翔を探していたようだ。


「ふーん、じゃあ皆翔の頑張りに感化されるといいんだけど…」


「私が変な事言ったから…?」


 俯く黒姫を突き放すように神鳴はその場を去りながら伝える。


「さぁ知らないわ、聞いた感じ知らない敵への恐怖を感じてたみたいね、黒ちゃんは自分を追い込みすぎよ、もっと軽く、ほら翔君って」


「な、なんでそうなるんですか…」


 素振りする翔を顔を赤らめながら見て名前を呟く。そこに西園寺がやってきて声をかけてくる。


「浜松いた?…あ」


 西園寺がすぐに背を向ける。


「なんかお邪魔だったみたいね」


「西園寺さん!?ち、違うからね」


 黒姫は西園寺を追いかけて行ってしまった。その様子に気付いた翔だったが無心になるために木刀を振り続けていた。


 ―――


 微かな篝火の明かりだけの暗闇が広がる王座、ひざまづく魔族の報告を頬杖をついて聞く金髪で竜の鱗で手足を覆った男がいた。神楽達の兄弟である神螺である。つまらなそうに先発の侵攻部隊の全滅を聞いていた。


「つまらんな、貴様達の能力を持ってしても苦戦する相手とは思えないのだがな」


 作戦の詰めの甘さや慢心を指摘されて何も言えなくなっていた魔族であったが白の国から逃げ延びた魔族の無双の男に興味を示す。


「無双?ハハハ、奥の手か?さぞ面白い男なんだろうな?」


 神螺は王座を立ち首と肩を回してニヤリと笑い戦争の号令をかける。


「侵略せよ!蹂躙せよ!破壊せよ!」


 神螺は高笑いし鎧を用意させる。


(神楽、まずは小細工を企む貴様からだ…!)


 赤の国、山岳が多く山の中に都市を築き他の国からは難攻不落と評される要塞を数々備える軍事国家である。そこでアキトは国王と謁見していた。要件は魔族の侵攻が近いことと対処法についてであった。


「人や物をモンスターに変容させる危険な存在か…なるほど」


 半信半疑の王にアキトは頭を下げて更に各国の協力が必要になるかもしれない事を伝える。


「協力か、出来ぬ約束はしないものでな…すまんが返答は保留させてもらおうか」


 仕方ないと割り切りアキトは次の国に移動する。


 黄の国、砂漠や荒野に囲まれ資源が乏しいながらも機動力、隠密性共に高い部隊を持つ流浪の民を擁する国家である。国王との謁見は通らず重鎮の家臣と面会し魔族の情報と戦争の可能性を伝える。老練な男は納得しつつ各国の協力についてはやはり消極的であった。


「ふむ、死霊術と傀儡術に近い能力…末恐ろしい、その魔族とやらに関しては注意することにしよう」


 残念だが好戦的国家である赤と黄は難しいと理解していたアキトは引き下がり次の国に移動する。


 青の国、島国で各街には船で移動する事が主で精強な海軍を持つ。表向きはまさに水の国と評される美しい街並みだが国家の中心は魔法により海底に作られているとんでも国家である。アキトはあまり歓迎されていなかったものの重要な話としてなんとか謁見まで辿り着く。


「ふーん、まぁヤバそうだし留意するよ」


 軽い感じで流すように話を聞きそう答える。協力に関しては大笑いして無理と答える。


「どーせどこも無理って言うよ、得無いし」


 損得無しでは動かないと主張しアキトの意見を一蹴する。


「まぁ魔法都市狙われるなら助けに行くよ、あそこは大事だし」


 多少希望のある返事で謁見は終わる。


 緑の国、この星一高い世界樹を領域に含む森の民と言われる狩りの名手を排出している国である。自然信仰に似た思想を持ち魔法の才能に長けていたりもする。女性の国王が治めている。


「魔族…自然物を魔物に変えてしまうとは恐ろしく許せない存在ですね」


 魔族の特性を聞き怒りに満ちた声色で語る。協力に関しては概ね理解を示しているようだった。


「援軍の要請があれば出しましょう、我々にとっては怨敵になりそうですからね」


 私怨が混じってそうな雰囲気だが危険についての共有はできたようだった。


 黒の国、白の国と双璧を為す騎士団を持つ、白の国が事実上壊滅した今平地での戦闘ならば最強になるであろう。魔法の才能もそれなりにあり軍事も文化も高水準の隙の少ない国家である。

 アキトは王への謁見を願ったが門前払いされる。最後にして最大の気難しい国だった。


「さてと、重鎮なんかにも会えず仕舞いか」


 一人途方に暮れていると従者を連れた若い将に見える男が声をかけてくる。


「おや、門前払い食らったのか?ウチに一体何の用だ?」


 アキトは事情と魔族について話す。


「なるほど、面白い話だモンスターを作り出すか、父に話しておく」


「王子、お戯れは程々にしてください」


 王子と呼ばれた黒髪ツンツン頭の男はアキトにニヤリと笑いかけ答える。


「はは、戦争か楽しみだ。我々の力を見せ付ける良いチャンスだ、何かあったら手伝ってやるさ」


 従者に咎められるもいいじゃないかと聞き流している。協力というよりも他の国に力を誇示して世界を掌握したいという野心を隠そうともしない豪胆な男であった。


 一通り各国の訪問を終えて報告の手紙を神楽宛に出して近場の次元の穴を塞ぎに外に出る。夜になっていたがやることもないので探すことにした。

 黒の国、城下町から少しはなれた草原を歩いていたアキトの前に月の光に照らされて次元を引き裂き男が現れる。


「貴様が件の無双の剣士か」


 危険な雰囲気を感じ取りアキトは冷や汗をかく。


「意外と小心者なのかな?我が名は神螺、わざわざ会いに来てやったぞ」


「おいおいマジかよ、大将出てきちまった…」


 アキトが刀を握り締め居合いの構えを取る。


「まずは遊んでやろう」


 両手を開きノーガードで肉弾戦を仕掛けてくるようだ。


「刀剣相手に素手かよ!?」


 掴みかかる神螺の攻撃を後ろに飛び回避して右腕を切り落とす勢いで居合い抜きを放つ。切り落とした感触はあったが刃はすり抜けたように神螺の腕は何ともなかった。


「っち、効かねぇのかよ…感触はあったぜ?」


「見事な一撃よ、だが我が右腕まだ落ちてはいないぞ?」


 ニヤニヤと斬った部位を見せ付けてくる。そして高く飛び拳を振り下ろしてくる。それを冷静にアキトは神螺の下を潜るように前に出る。そして着弾地点に氷柱を氷雨に作らせる。


「む!氷!?」


 神螺は氷柱に刺さる前に拳を振るって破壊する。着地をしたところをアキトが神螺を縦に両断し傷を凍結させる。


「これでどうだ!」


 反撃を想定してすぐに距離を取る。また手応えはあった。しかし切り口を凍結させたはずだがすぐに煙を上げて傷が塞がっていく。今は無理と判断し高速移動の薬を飲みいつでも離脱できるようにする。


「なるほど、ちょこまかと…そこいらの雑魚では苦戦する相手な訳だ!」


「不死ってのはマジらしいな…」


 氷雨の技で氷柱を飛ばして牽制する。拳で飛ぶ氷柱を砕く。アキトは不死の秘密を暴くためにかまをかける。


「なるほど、その驚異的な回復力、周囲のエネルギーでも吸っているのか」


 わざと崩した言い方で伝える。


「ほう、周囲に漂う魔力の素を吸うのが見えたか?」


「枯渇させることが難しい…故に無敵か…俺には無理だな」


 逃げようとするとこに神螺が踏み込んできてアキトの反応が遅れ刀を庇うために脇腹に一撃入り吹き飛ばされる。


「ふん、やっと当たったな」


 吹き飛び地面に落ちた衝撃で眩暈を起こしながらアキトは立ち上がる。口の中に溜まった血を吐き出して愚痴る。


「これで本気じゃないとかやってられねえな!あばよ」


 服の汚れを叩き落として神螺に別れを告げて薬を飲み込みアキトは撤退する。


「ほう、逃げる力はあったか…まぁいい」


 高速移動で魔法都市の前まで逃げてきたアキトだったが門番の所に辿り着いた所で緊張の糸が途絶えて気を失い倒れるのだった。

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