第26話
それからというものウェリナは、あからさまに俺を避け、マリーとイチャつくようになる。食事も、宮殿でのランチを除いて朝晩はマリーと一緒に摂る。ただ、たまに屋敷で俺とすれ違うたび「悔しいだろほらほらほら」と言いたげなドヤ顔を向けてきて、奴の魂胆が丸わかりなのが正直かなり鬱陶しい。
なので、そのたびに「最近マリーちゃんとイイ感じじゃねぇか」と返してやると、そのたびにウェリナは嫌そうに顔をしかめ、それから、ちょっとだけ寂しそうな顔をする。
その、寄る辺なさげな――ペットショップで新しい家族を待つ仔犬みたいな顔がなぜか俺は好きになれなくて、次第にそうしたやり取り自体を避けるようになる。あいつとすれ違っても顔を合わせない。声をかけられても無視。そもそも奴の帰宅中は部屋から出ない。
で、そんな日々が二日ほど続いた頃、中庭でマリーに声をかけられる。
俺は図書室に本を返した帰りで、一方のマリーは何やら書き物の途中らしく、テーブルには書きかけの文書とペンが置かれている。何か用があって声をかけたというよりは、ブレイクの途中に話し相手を見つけた、といった感。
「殿下ぁ!」
「えっ、あ、お、おう……」
なぜか狼狽える俺。いや、なんで? そんな戸惑いやら焦りをどうにか抑えつつ、マリーのテーブルに歩み寄る。と、なぜかマリーは手元の文書をそそくさとテーブルの下に隠す。まぁ、書いたものを人に見られるのは恥ずかしいもんな。
「えーと、どう、調子は」
我ながらざっくりした問いである。ただ、これ以上踏み込むのはなぜか気が進まない。俺のせいで軟禁生活を強いられる彼女への後ろめたさ? それも、ある。あるんだが……なんだろうな、俺への当てつけのためだけに彼女に紳士を演じるウェリナの様子を、あまり聞きたくない、というか。
ところがマリーは、そんな俺の弱点を的確に抉ってくる。
「それが、聞いてくださいよ! ウェリントン様ってば私と食事を摂りたいと仰るくせに、いざテーブルを囲むとぶっすりと無言で、気まずいったらないんです。ああもう、殿下と一緒にお食事を摂りたいなら、素直にそう仰ればいいんですよっ!」
「あはは……」
おーいウェリナ、全部バレちゃってるぞ。
「私としてはむしろお二人に睦まじくして頂いて私は壁としてそれをじっくり鑑賞――」
「え、なに?」
「あ、いえ……こっちの話ですおほほほほ。と、ところでお話は変わりますけど!」
そしてマリーは、ふたたびテーブルに身を乗り出し、俺の顔をずいっと覗き込んでくる。
「イザベラ様とのご婚約は、結局どうなさるおつもりですか!?」
「……は?」
意外な方向から切り込まれ、俺は一瞬、虚を突かれる。イザベラとの婚約がどうしたって? いや、そんなの、遂行あるのみに決まって――
「城下ではもっぱら、イザベラ様と婚約解消説が噂されているのですが、これは本当なのですか?」
「……婚約解消」
そう復唱してから、遅れて追いついた理解に俺は目を剥く。
「はぁぁぁぁあ!? なななな、何でっっっ!?」
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