悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

第11話

　夜が更けると、俺は早々に会場を後にする。

　舞踏会は今も続いてる。例のサクラを見る会はオールでやる大変豪勢なもので、貴族たちは入れ替わり立ち代わりフロアに参集しては、踊ったりワンチャンを狙ったり、あるいは貴族本来の役目である人脈作りに勤しむなどする。

　俺も、できればイザベラとの関係アピールのためにできるだけ長く会場に留まりたかったんだが、当のイザベラに疲労が目立ち始めたのでやむなく断念する。無理に付き合わせてイザベラの不興を買えば、それこそ本末転倒というやつである。

　というわけで俺は今、俺の――正しくはアルカディアの馬車でイザベラを彼女の屋敷へと送っている。

　彼女はそもそもシスティーナ家の馬車で宮殿に上がっているし、わざわざ俺が馬車を出す必要はない。ないんだが、女性を遅くまで拘束しておいて見送らないなんて選択肢はナシでしょう。そうでなくとも、王子の紋章がついた馬車で彼女を送れば、それ自体が周囲への喧伝になる。我々の関係はつつがなく続いている。システィーナ家にも、王太子は娘を大事にできる甲斐性ある男だとアピールできる。

　全ては、俺が生き延びるために。

　元のシナリオなんざ知ったことか。

「今日はすまなかったね。随分と引っ張り回してしまった」

　するとイザベラは、驚いたように黒い大粒の瞳を見開き、いえ、と俯く。

「その……ウェリントン侯爵の言ではありませんが、やはり、以前とは別人のようで、正直、驚きました」

「……えっ」

　やっぱりというか、イザベラにも同じ印象を与えていたんだな。ただ、イザベラからの言及はこれが初めてで、そのことに俺は面食らう。

「あ、ああ……侯爵にも話したとおり、僕もいい加減、王太子としてきちんとしなきゃと思ってね。後継ぎが情けないと、国民にも不安を与えてしまうだろ？」

　が、やはりイザベラの目は相変わらず冷めている。あんなにだらしなかったアンタが何を今更、という顔である。……うーん。俺の『脱バカ王子！　破滅を回避して悪役令嬢と幸せになるぞ！』計画は、なかなかどうして波乱含みのようだ。