第2話

 クリステン王国。それが、俺が王子として転生した国の名だ。

 王国と名がつくぐらいだからもちろん国王がおり、国王がいれば当たり前だが王室もある。俺、ことアルカディアはその第一王子、つまり王太子として生をうけ、ここまでの十八年をまぁ好き放題に生きてきた……ようだ。

 唯一褒められる点があるとすれば、その容貌だろうか。

 実は、悪役令嬢モノでは、意外にもバカ王子はそこそこの美男子として設定される。詳しい理由はわからんが、女性需要が中心の作品に、悪役とはいえ汗むっさいブ男を出すメリットは確かにゼロではあるだろう。

 ともあれ、アルカディアはなかなかの美形だった。透明感のある白肌。くっきりとした二重に長く密な睫毛。つんと尖った形の良い鼻。小ぶりだが色艶の良いくちびる。肩の高さで切り揃えた銀灰色ののショートボブも、これだけ美形だと逆にハマって見えるから凄い。エメラルド色の大ぶりな瞳も同様だ。

 強いて問題を挙げるとすれば、その壊滅的なファッションセンスだろう。

 転生後数日は状況把握のため、仮病を装って私室に(もちろん、アルカディアのだ)籠っていた俺は、その間、奴の身の回りの品についてもチェックを試みた。

 その際、象一頭を余裕で飼えそうな(この世界にも象がいるのかは知らん)収まりそうな巨大クローゼットと、そこに収められた推定数百着もの〝痛い〟アイテムを見つけてしまった俺は頭を抱えた。とりあえず身体にはフィットする。が、色も柄もデザインも何もかもが痛すぎる。補色同士を組み合わせた水玉のパンツとか、イソギンチャクじみた総フリル仕立てのジャケットだとか。いや、今時芸人でも着ねぇよそんな服……

 とはいえ、本来のアルカディアがこうしたアイテムを好んでいたのなら、俺もそのセンスを引き継ぐしかない。絶望的な気持ちで袖を通し、メイドさんにその姿を見られたときは、さすがに泣きそうになった。

 ただ、幸か不幸か服装についてメイドさん達から指摘が入ることはなかった。

 むしろ笑われもしない。そりゃそうだ、何せ相手は王子だもんな。アルカディアの尖り過ぎたセンスは、こうしたツッコミ不在の環境で養われたのだと思うと妙に納得できたし、正直、ちょっと可哀想だなとも思った。


 アルカディアの終わったセンスについてはこのぐらいにして、俺には、より喫緊の課題が存在した。

 とりあえず、この悪役令嬢モノらしき世界で、バカ王子である俺がどう生き延びるか、だ。

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