とり逢えず

藤泉都理

とり逢えず




 とり。

 鉛筆。

 木の軸に、黒鉛と粘土で作った芯を入れた筆記用具の一つ。


 隠語大辞典より。






 今時、鉛筆を使っている者など、どれほどいるのだろうか。

 ほとんどの者はシャープペンシル。否、シャープペンシルすら使用していない者がいるのではないだろうか。

 スマホがあるのだ。

 スマホに限らず、電子機器のメモ帳に記録すればそれでいい。

 もはや、シャープペンシルや鉛筆などの筆記用具は、絶滅危惧種。

 或る特定の職業に就いている者や奇特な人間しか使っていないのではないだろうか。

 かく言う私もその奇特な人間の一人である。


 鉛筆。

 ああ、あの六角形の鉛筆よ。

 HB、B、2B、の鉛筆たちよ。

 どこぞへ消えおったのだ。


 手が疲れるからもう要らないなどと私は言わないよ。

 鉛筆削りで、カッターナイフで削るのが面倒くさいなどと私は言わないよ。

 削った残骸を捨てるのが面倒くさいなどと私は言わないよ。

 ちんこくなった君たちも全部使い切っているから。


 紙との相性がいいんだ君たちは。

 筆が乗る、否、鉛筆が乗るのだ踊り出すのだ泳ぎ出すのだ紙の上で。

 たったらた~たらりあんりあ~りら。

 日記帳の空欄が埋まる事、埋まる事。

 その日にあった事、感じた事、知った事、それらを組み合わせた想像。

 鉛筆が止まらなかった。

 のに。


 鉛筆よ、ああ鉛筆よ鉛筆よ。

 どこぞへ消えおったのだ。

 こんなに走り回っておるのに、取り扱っていません、在庫がありません、お取り寄せできませんと言われるだけ。


 鉛筆よ、ああ鉛筆よ鉛筆よ。

 昔はどこへ行っても目にしていたはずの鉛筆よ。

 昔はキャラクターものを見せ合っては自慢していた鉛筆よ。

 今は深い緑色一色の六角形にぞっこんよ。




「ぐふう」




 小学校に通う孫に尋ねても、鉛筆を使っていないタブレットを使っているからと返されてしまった。

 ああ、教育長よ、何故、鉛筆を小学校から廃してしまったのか。

 あんなに素晴らしい筆記用具である鉛筆を何故。




「ぐふう」




 私は諦めぬぞ絶対に探し出してみせる。












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とり逢えず 藤泉都理 @fujitori

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