第14話
禁固刑一ヶ月。キイが放った銃弾はわき腹を貫通したが、応急処置が早かったらしく大事には至らなかった。肋骨のヒビは安静にするしかなく、病院のベッドで目が覚めたときはついでのように首の傷も縫われていた。退院後、そのまま刑務所暮らしが始まった。
建前は軽犯罪の積み重ね、ということになっているらしい。詳しいことは分からない。全てヨンがお膳立てした。ろくな捜査もなくあっという間に起訴され、病院から移送させられるときには"直葬"という言葉が頭によぎったほどだった。この世に未練はない。
狭い檻に閉じ込められながら考えた。ちゃちな刑を与えるために私を捕まえたヨンは、一体何がしたかったのだろう。花の無事は確信していた。結果捕まってやったのだから、荒らされる理由はないはずだった。あの男が、嫌がらせのために無駄な行動をするとは思えなかった。
土壇場で裏切ったキイのことが一番分からない。それでも花だけは守ってくれていると信じられた。それこそ理由は分からないが。
生活に慣れたころ、ヨンが面会にやってきた。記録係を退室させると、スリ師の顔で向かい合った。不思議なことに強く殴ったはずの頬は早くも元通りになっていて、初めて会ったときを思い出させた。あのときに殺しておけばよかった。
「手こずらされたよ」
「次は何?」
ガラス越しに、正面からあらためて顔を見た。ヨンは私が思っていたより、ずっと若いのかもしれない。
「刑期を終えたらもう構わねえよ。表に出て、好きに生きろ」
「何がしたかったの」
今度は私が見られる番だった。胸の内に封印した、ある記憶がある。ヨンはそれを見ようとした。
「お前、エスを、水樹を撃った男を殺したろ」
「いいえ」
「あ、そう。じゃあ驚くかもな。お前の家の花壇から、空の薬きょうとチャカが出てきたんだ」
「へえ。なぜかしらね」
「どっかのヤクザの頭蓋骨にぶち込まれてた弾丸のものだよ」
「だから何?」
「消した」
「待って。結局花壇を掘り返したわけ? 花は無事なんでしょうね」
「半分くらいはな」
冷静を装い、ヨンの正体を見極めようとした。最初から殺人容疑で追われているとは思っていなかった。もしそうなら強引にでも花壇を掘り返せば済む話だからだ。凶器が出れば言い逃れは出来ない。だが、わざわざスリ師として接触し、脅迫を持ちかけた。でっち上げた罪で中途半端な刑をくれ、その間に殺人の証拠を握りつぶしたという。
私は言葉をそのまま受け取り、花を守りたい一心で走り回っていたが、ヨンとしては、埋めたモノを知っているぞという脅しのつもりだったのだ。
「訳分からんて顔してるな。武藤華、よく聞けよ、これを仕組んだのは水樹だよ」
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