第45話始まりは君のそばで⑥

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「おい、次、子爵令息と出かけるのはいつだ。」


「さあ、いつかしら?」


「どういうことだ。もう2週間だぞ。それに頻繁に届いていた贈り物もなくなっている。」


「ふふ、そういうことじゃない?」


「なんだと!一介の子爵令息風情が、殺す!…いや、断ったのはお前か?」



貴族的な言い回しは俺には難しい、どういうことだ。



「うーん、そうね。どっちもじゃないかしら?」


どっちも?


「やっぱり”狂乱の死神”が付いて行くっていうのは、ちょっとね。相手の御父上みた?初めてあなたを見た時、魂が抜けていたじゃない。ふふ、あれじゃあ駄目ね。」


俺のせいか?


「…お前、あんなに楽しそうにしていたのに。気に入っていたんだろ?待ってろ。俺は付いて行かないから、考えるように言ってくる。」


慌てて立ち上がる。こいつの幸せの足を引っ張るなんて。




「だめよ、もう断ったもの。」


うそだろ…


「なあ、シルヴィ。俺の存在が邪魔なら切り捨てていいんだ。俺はどうとでも生きられる。お前との約束は守りたいが…。」


「いいのよ。それに、婚約者候補はまだいるもの。”狂乱の死神”の名を怖がらないから私の中では第一候補よ。誰だと思う?」



そんな奴いたか?だれだ?いつの間に…



「侯爵家の騎士…いや違うか、商会の従業員?侯爵が前に押していた伯爵家の令息か?…誰だ。早く言え」


シルヴィが姿勢を正し、俺に淑女の微笑を向けやがった。



「ふふ、それではアラン、答え合わせをいたしましょう。」


…おい


「その方は、男爵位でね。」


「はっ!論外だな。身分が合わないだろ。」




「特に瞳が美しいの。嬉しい時の瞳も機嫌が悪い時の瞳も目が離せないわ。初めて会った時からその輝きに魅了されているの。」


「瞳だと?外見に惑わされるなんて、シルヴィらしくない…」




「その人、私に意地悪を言ったり命令したりするのよ。何かしようとすると怒るときだってあるわ。男爵位なのに。ふふ。」


「もう、そこまでだ。お前に意地悪だと?命令?はっ!碌な男じゃない。この話は終わりだ。」



いったいどうした。そんな男、婚約者になれるわけがないだろ!!なんだ、見る目がないな。



「まだあるのよ?口もものすごく悪くてね。ふふ、でも、私との約束をずっと守ってくれている優しい人なの。約束の対価、全然合わないはずなのにね。私はずいぶんひどいことをしてきたわ。それなのに、ずっとそばにいてくれるのですって。」



‥‥…。



「その人がね、私の世界に色を付けてくれたの。私の中にも負の感情以外のものが存在すると教えてくれた。”狂乱の死神”と呼ばれているらしいのよ。ええ、私が死神にしてしまったの。だから、私が死ぬときには、その死神に連れて行ってほしいと思っているわ。」




「…お前は、本当にその男がいいのか?」


「ええ、もちろんよ。」


「そうか…時間をくれ。」


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