第46話始まりも終わりも君のそばで END

”時間をくれ”



どのくらいの時間か聞いておけばよかったわ。頭を整理する時間。普通そう思うでしょ?あんなにそばから離れるのを嫌がったのに、3か月…連絡もなしのこの期間は長すぎる。



「ねえ、叔父様は何か知っていらっしゃる?」



「何かって何だね?」



「アランがどこに行ったのか…また、極秘の諜報活動かしら?」


「いやー、アランがいないと平和でいいね。これで、お産を終えた僕の妻が帰ってきても、私の可愛い赤子がおびえずに済むよ。あはは。」



「そうですか…」


本当に知らないのだろうか。しかし、仮に諜報活動だとしたら、言えるわけもないか…



でも、もしかしたら受け止めてもらえなかったのかもしれない。そうよね。見ず知らずの令嬢に一方的な約束をさせられ、命の危険すらあった。振り返ってみたら、ひどい女、当然よね。


わかっていたはずじゃない。手放す心の準備はしてきたはずよ。本当にほしいものは昔から手に入らなかった。

思いは告げられた…いいえちょっと待ってあれは告げたうちに入るのかしら?



アランよ、話を途中から聞いていない可能性もあるわ。まって、どうしよう。『この話は終わりだ。』って言っていたあたりから聞こえていなかったとしたら。伝わっていなくて、また、自分が邪魔になると思って、姿を消した…。ありえるわ。


”時間をくれ”、そうよ、最後はそう言ったわ。考えてもしょうがない。時間が来るまで、どんな結果になってもいいように心の整理はしておこう。そうよ、私は強くなった。大丈夫…。



********************


「さ、今日は宮殿に行くよ。支度をして。」


何の前触れもなく叔父様が朝食時にそう告げた。え?フランシーヌに会うのは来週だし、何か用事があったかしら。



「なぜです?皇子の誰かとお見合いというわけではないですよね。」



「はは、それでもいいんだけど今日はそうじゃないよ。まあ、着いてからのお楽しみ。」



その後、よくわからないまま磨き上げられる。ドレスアップした私を叔父様が迎えに来た。エスコートされ馬車に乗り込む。



「ああ、綺麗だね。昔の姉上を見ているようだ。」


「叔父様、そろそろ教えてくださらない?」


真剣な顔をした叔父様が馬車の窓から遠くを見ながら話し出す。


「…あの国の新しい国王から親書が届いたらしいよ。大体が君の予想通りの結末を迎えた…ってところだね。はっ、ずうずうしくも大聖女の君にお願いがあるそうだよ。…まあ、シルヴィは、それを聞いてしまいそうだがな…。」



「…そうですか。今日はそのお話を聞きに…。」


ああ、ようやく終わったのね。もっとすがすがしい気持ちになると思っていたけど…。



「ん?今日は違うよ。」



えぇ…。



「ははは、まあまあ、悪いことではないはずだよ。サプライズだ」


「そうですの…。」


やっぱり、お見合いの可能性が強いわね。他国の皇子とか。



宮殿に着き、向かった場所は、謁見の間だった。



壁の横にずらりと並ぶ貴族たち。勲章を付けている人が多いということは何かの授与式かしら。なぜ私が?緊張感が高まる。




皇帝陛下が登場し、宰相が読み上げる。



「この度、各地での紛争がすべて終戦を迎えたことを、ここに宣言する。」



「「「「「「「おおお。」」」」」」」どよめく会場。


「功績者は前へ。」



「「「はっ!」」」


3人の功績者が前に出る。ん?あの後ろ姿は?



「・・・・を授与する。最後に、アラン・ディアス男爵。この度の貴殿の功績は特に大きい。敵の戦意を喪失させ短期間で降伏させた貴殿には、1代限りではあるが伯爵位を授ける。また、白金貨10万枚と邸を授与する。」



「ありがたき幸せ。」



どういうこと?



「はは、びっくりした?アランに相談されたんだ。もっと上の爵位がほしいって。だから、アランに言ったんだ。汚い方法と危険な方法、正式な方法どれがいいって。ほしい理由が分かったから、きっと、正当で後ろめたくない方法を選ぶと思ったんだ。」


叔父様が笑いをこらえている。


「なのにアラン、『確実に早く手に入れる方法を教えろ!汚かろうが危険だろうがどうでもいいんだよ。』だって、あはは、私は、アランのそんなところが大好きさ。」



表向きは、紛争の功績者だけど、君に言えない今までの仕事もプラスされての伯爵位だね、きっと皇帝の影、いや暗部かな、その約束もしているだろうね。叔父様が小声で言う。


「…それは、私がなんとかしますわ。」

「はは、私も力になるよ。」




「これにて授与式を終わる。」


高らかな宣言の後、会場は、大きな拍手に包まれる。

アランがくるりとこちらを向き、まっすぐ歩いてくる。



「…何も聞いていないけど?」


「ああ、何も言っていないからな。」



アランが、片膝をつき、胸に手を当てまっすぐ私を見る。



「シルヴィ・ミュラー侯爵令嬢。初めて会ったときは、性格の悪い天使だと思った。力を、爵位を、と言われ戦場にいた頃は、毎日お前を憎んだくらいだ。はは」



そうよね…。



「聞いてくれ、お前のそばに誰かがいるのを見るのは、もううんざりだ。お前は、むちゃばかりするし、傷つきやすく優しすぎる。虚勢をはって、立とうとするお前を支えるのは俺だ。結婚式で誓いを交わすのも俺だし、初夜ももちろん俺とだ。子供?俺とお前の子だろ?可愛がるに決まっている。看取りたくはないな…できるのなら共にいこう。愛しているんだ。伯爵位ならつり合いが取れるだろ?」


顔に熱が集まる、目も熱くなる…。つり合い…そうだったのね。

「こんなに傷だらけになって、無茶をして……ほかにも方法があったはずなのに」



「俺は俺の力でお前に見合う男になりたかったんだ。それに今回は前より早かっただろ?褒めてくれ。シルヴィ、お前が望むなら俺の手を取ってほしい。俺なら共に同じ方向をずっと見つめていける。こうやって見つめ合うこともできるぞ。シルヴィを傷付けるもの全てから守ろう。結婚してくれ。」



「もちろんよアラン!ーわあ!」



手を取った私を喜びに満ちたアランが抱え上げる。



「人が見ているわ、おろして」


必死で抵抗するも、びくともしない。まあいいわ。こんなに幸せそうなアランを見るのは初めて。



「はは、もう俺のものなら、かかえるのも許されるだろ?これからもお前のそばにいて、今日のお前を、毎日記憶に残してやる。嬉しいか?」



「ふふ、嬉しいわ」



夜空の雲や星のようにも見える美しい私のラピスラズリが、私に幸運をもたらす。



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