第34話

-お茶会の後、商会訪問-


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「この後、商会へ行くわ。」


フランシーヌとのお茶会を終え、まだ日も高かったため、この国にある私の商会へ向かうことにした。




あの国にいた頃、叔父様に頼み、手に入れた商会だ。初めて会った商会長ジャンは、情に弱く、それによって手元資金を減らすような人だった。昔からの取引相手にいいように利用され、挙句、従業員にお金を持ち逃げされ、一家で首をくくるしか…というところだったのを、叔父様に声をかけられたと聞いた。



そんな人が商会長だった商会?と思ったが、経営が向いていないだけで、ジャンの商品を見分ける鑑定眼は本物だった。そして新しいもの流行るものをかぎつける勘も素晴らしいものだった。叔父様、さすがだわ。


優秀な経理・財務担当、営業担当を雇い、商会長には、商品に向き合うことに集中してもらった。結果、今、めきめきと売り上げを伸ばしている。



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書類が積み重なり、従業員が騒然とした中で、右往左往している。


「…帰るか?」


多事多端な様子を見たアランが、げんなりした顔で言った。



「ふふ、だめよ。もう、商会長に見つかってしまったもの。」


疲れ果てた顔で、書類と格闘していた商会長が私に気づき、顔を明るくさせた。


「ああ、やっと来てくださった!シルヴィ様、なんですこれ?いろいろな国や商会の取引の契約書が、どんどん送られてきて、てんやわんやなのですが…。」



「前から言っていたではないの。あの国の商会はいずれ手放すから、すべての窓口はこちらに移るって」


「ですが、この量は…。今の人数じゃ無理ですよー。」



商会長から、書類を半分受け取って、処理していく。



「大丈夫よ、優秀な人材をきちんと引き抜いているの。もうすぐ紹介するわ。」



『新しい従業員…各部署への調整は、きっと私の仕事ですよね…。』と泣き言を言いながらもどこか嬉しそうだ。



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新しい商品を見せてもらったり、商会の規模拡大に向けての会議に参加したりとそんなことをしているうちにすっかり夕暮れだ。




「少し歩きたいわ。」



御者に、先に帰るように伝え、アランとナタリーを伴い、歩きだす。坂道や階段、細い路地が続くこの地区は、この国の魅力をより深く感じることができる。




「ああとってもきれいな景色ね。…もう少し、遠くまで見渡したいわ」


道の脇を見ると、側面の土が崩れるのを防ぐために設置される擁壁がある。登れそうね。




「おい!シルヴィ、そんな靴で!危ないぞ」

「シルヴィお嬢様!!」


アランとナタリーが慌てて止める。



「このくらい大丈夫よ。」


あー美しい景色。遠くの丘も沈みゆく太陽も美しい。…優しい風が頬に当たり気持ちいいわ。



「ねえ、2人は、私の顔が、見るも無残にただれてしまったらどうする?」


「泣きます!!あっ、そういうことではないですよね。シルヴィお嬢様に嫌がられても決しておそばを離れません。」


ふふ、ナタリーありがとう。





「…お前、自分で治せるだろ?」


ずっと無言で考え込んでいたアランが言った言葉を聞き、ナタリーが冷たい目を向ける。


「な、なんだよ。あれだろ。姫さんと同じ状況ってことだろ?…ってシルヴィまでなんだよその目…」


………。


「はぁ、もしもの話は嫌いなんだよ。ただれたらだったか…正直嫌だ。そもそも護衛の俺がそんな状況にはさせないし傷一つ付けさせやしない…治せないって言うなら、お前が自分の姿を見て悲しまないようにこの世の鏡をすべて割ろう。俺に見られるのが、いや、俺の目に映る自分を見るのも嫌なら目を潰してもいい。そうだ、お前以外の奴の目を全て潰してやろう。」



『物騒な!』『なんだと!』とアランとナタリーが言い合っている。初めてあったころはあんなにおびえていたのに、ナタリーも随分強くなったものね。


ふふ、アラン、私はその答えにとっても満足よ。




夕日が沈みかけ、ナタリーがはらはらしているから、そろそろ降りようかしら。



………。




「…どうした。」


勘づいているくせに



「降りられないと言ったらどうする?」


「ほらみろ!!だから言っただろ!?はぁ~…ったく!俺の体格じゃそこは狭すぎる。しょうがない、ほら、思いっきり飛べ、受けとめてやる。」


大きく手を広げるアランに向かって飛び込む。




「ふふ。重かったでしょ。」


「ばか言え。だから、羽より軽いと言っているだろう。」



呆れ顔のアラン。ラピスラズリが夕日に映えるわ。

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