第35話

終わりの終わりー王太子と王妃ー


ー王太子ー



「はっ!こうやって改めてみると、全く似ていないな。そうは思わないか?」


母上が青ざめた顔で目を逸らす。冊子は、ここへ入ったと同時に宰相に奪われ、父上の手に渡った。



「ああ、そうだった。なぜ忘れていたのだろう?生まれた時、お前はそのような紫がかった瞳をしていた。年月とともに私に似ていったから、あっという間に大きくなる子供は、身体の成長はもちろん、顔つきも日に日に変化していく。そのようなものだろうと安易に考えていた。」



知らない、そんなの知るわけがない。



「お前はどう思う?お前は、私の息子か?」



息子として生きてきた。それなのに…答えがわからない。なんといえば正解なのだろう…。



「実家の執事見習いか。盲点だったな。会ったこともない、いや会わないようにしていたのか?疑いもしなかった。」


震えが止まらない母上、気配を完全に消しているミラ。


私自身、一言も発せられない、身動きが取れない。あんなに愛されていたことが嘘のようだ。この雰囲気に耐えられない。誰か助けてくれ。部屋に帰りたい。



「…親子鑑定の議を行う。」


父上が静かに切り出した。



「なに、髪の毛を数本差しだせばよい。私だけでなくお前も知りたいだろう。何の憂いもなく親子に戻ろうじゃないか。」


父上は、”戻ろう”…そんな目はしていない。怖い。いやだ。



呼ばれる魔術師、切られる髪、用意される数々の魔道具。永遠にも感じる長い時間が流れる。



「…99パーセントの確率で親子ではないと思われます。」


覚悟はしていた、していたが…うぅ



「せめてお前が有能であったならば…。使い道はあったのだがな。」


「そんな馬鹿な……!父上、私が無能だと……?私は今まで、何の問題もなく公務をやってきていたではありませんか!」



「お前、この冊子を見たのだろう?お前が問題なくやれていたのはな、重要な公務をほぼシルヴィが請け負っていたからだ。シルヴィがお前の教育係と連携をとりながら、徐々にお前ができる仕事を増やしていけるよう調整していたのだ。」


「そんな……、知らない……!」



「親子ではないことがわかったならば、これで終わりだ。部屋へ戻れ。沙汰は後日伝えるが、王位継承権の剥奪にはなるだろう。もちろんシルヴィへの慰謝料の請求はお前個人にだ。国は関係ない。婚約者への予算を横領したお前にはその分の補充もしてもらう。…剣の腕も大したことがないからな、騎士は無理だ。…鉱山で働いて支払うことになるだろう。」


そんな、こんなこと間違っている。なぜだ。誰のせいだ。こんな目に合うのは。

母上、黙っていないで、助けてくれ。



********************


ー王妃ー


「…セレスティーヌ覚えているか、若かりし頃約束をしたことを」



ああ、結局、恐怖のあまりセドを助けるどころか一言も発することができなかった。



「私たちは真実の愛。だからこそ、お互いの裏切りは許さない。裏切りには死をもって償うと」


 

死をもって…。



「 托卵か…はは、私は、愚かな王として名を残すのだな…。」



ああ、終わった。辛くても苦しくても、実家になど帰るべきではなかった。いや、自分をよく知りもせず、人を蹴落としてまで、何かを望んではいけなかった。高望みをしなければ、甘い誘惑に乗らなければ、シルヴィを愛せば…はは、はははは



「王妃の姦通は死刑だ。しかし、楽に死ねると思うなよ!連れて行け!!」


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