第33話
ー王妃ー
初めてシルヴィを見た時、陛下の元婚約者を思い出した。
美しい容姿、優秀なところ、全てが鼻につく。挙句に聖女ですって?どこまで嫌味な女なの。そんなところがあの女そっくり。この女が私の息子の婚約者?冗談じゃない。
…陛下の元婚約者が美しく優秀であっても、陛下に選ばれたのは結局、私。こんな政略ではなく、息子にも心から愛する人と結ばれてほしい。
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あの日のことを、忘れていたわけではなかった。
陛下を奪い取った優越感に浸り、これからの幸せな生活を夢見て始まった王宮での暮らし。周りからのプレッシャー、優秀な元婚約者と比べられる日々、終わらない厳しい王妃教育。隣国に嫁ぎ幸せに暮らしているというあの女の噂。地獄だったわ。
日に日に食事も喉を通らなくなり、すっかりやつれた私を心配して陛下が実家で休養してくるといいと言ってくれた。実家での生活は穏やかで、体調も戻りつつあったが、このまま元気になったら、また地獄が始まるのかと思うと、気分は落ち込んでいった。
そんな中、執事見習の男が、『私があなたの心に寄り添い、支えになりたい』とささやいてきた。弱っていた私が、一線を踏み外してしまうほどにその男は優しかった。そうよ、陛下は何があっても守るといったのに私は今こんな目にあっている。悪いのは私じゃないわ!陛下よ!
ほどなくして、妊娠がわかった。
両親は喜び、すぐ王宮に使いを出した。私は王宮に呼び戻され、手厚く扱われた。…どっちの子なの?不安が消えない。しかし、妊娠中のため心労をかけないようにと王妃教育が中断、王子を妊娠しているかもしれない私にプレッシャーをかけるような馬鹿もいない。はは、なんだ、あんなに悩み、苦しんでいたことが小さなことのように思える。…そうよ、幸せな生活がやっと始まったんだわ。…あの男には、遠くに行ってもらわないと…。
生まれた我が子をこの手に抱いた時、何とも言えない気持ちになったわ。陛下の色と言われれば、そのような。いや、あの男の色の方に近いわ。ダメよ…そんな…
違和感があるのに誰も口にしない。そんな、不安で落ち着かない日々を過ごしていたが、私のセドは、10歳を過ぎた頃から、日に日に陛下にそっくりになった。陛下も自分によく似てくる我が子を溺愛した。そうよ、陛下の子よ。こんなに似ているのだもの。ああ、これですっかり憂いはなくなったわ。でもセドのため、小さくても災いは消しておかないと。…当然あの男は始末したわ。
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…あの日
決してばれることのない、いや、ばれることが許されないことが知られてしまった。
なんで、シルヴィは知っていたの?おかしいじゃない!!
幻覚魔法って何よ。あの女、全てを知っていて、私とセドをあざ笑っていたのね!!
…シルヴィを大切に扱っていたら…いえ、そんな気は欠片もなかったのですもの、考えても無駄よ。
「陛下がお呼びです。王妃様」
体調を理由に断ってきたが、もう駄目だろう。
せめて、セドを守ってあげられるだろうか…
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