第25話
数日後
ドン、ドン、ドン。乱暴に部屋のドアをノックする音が聞こえる。
ソファに腰掛けていたアランが素早く立ち上がり、腰の剣に手をかける。
「あら?珍しいわね。誰かしら?」
返事を待たずに、お父様が勢いよく扉を開ける。
「今日から、この者が、お前の専属侍女だ。挨拶をしろ。」
腕をグイっとつかまれ、押し出すように前に出された栗毛の子。
「は、は、はじめまして。お嬢様。ナタリーと申します。」
お父様、どういった風の吹きまわしかしら。
「ふん、護衛がいて専属侍女がいないというのは不自然だろう。感謝しろ。しかし、この者はお前との個人契約だ。よって、給金は、そこの護衛同様、お前の叔父にでも出してもらえ。」
言いたいことだけ言って去っていく。お義兄様。そっくりね。あ、逆か。
残されたナタリーの目に涙がたまっていくわ。かわいそうに。
「…専属侍女がいなかったのか?」
「そうなのよ。ふふ。」
「おかしいことは俺でもわかるぞ…。」
ああ、また眉間にしわを寄せて。
「ナタリー、今ちょうどお茶にしようとしていたの。あなたのことを知りたいわ。一緒にお茶をしましょう。」
「と、とんでもございません、一緒にお茶など。あ、でも、私、お茶を入れるのは得意です。ぜひ、私に入れさせてください。」
「そう?じゃあ、お願いするわ。」
たまった涙を拭き、手際よくお茶の準備を進めるナタリー。
出された紅茶は、とてもいい香りがする。
「んー、おいしいわ。さあ、あなたも座って?」
「そんな、お嬢様。私は侍女です。と言うか、お嬢様の目の前の方は、その、護衛ですよね。普通部屋の外で、扉の前に控えているか、少なくても主人の前のソファに座るなど…ひぃ!」
あらあら、アラン睨んだらだめよ。
「その主人が座れといっているんだ、つべこべ言わず座れ。」
「は、はいっ!!」
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「それで、ナタリーはどうして私の専属侍女になったのかしら?」
「それは、その…す、すみません!旦那様には黙っていろと言われたのですが…。実は、こちらのお屋敷には、3か月前から雇っていただいていましたが、実はつい先日私の実家である子爵家が没落いたしまして…没落した家の娘なぞ公爵家の使用人として雇っていられるかと言われたのですが、私は三女で行き場がなく、そしたら本日、ほとんど説明もなくここに連れて来られまして…」
ああ、また涙がたまっていく。
「お、お嬢様!私、精一杯働きます。家族もばらばらになって頼る人もいないのです。生活できればお給金もいりません、お願いします!!」
土下座でもしそうな勢いね。
「だめよ。」
バッと顔を上げたナタリーの顔が青白い。
「だめよ。お給金はちゃんと払うわ。私の初めての専属侍女よ。大事にするに決まっている。それに、お嬢様だけもだめよ。シルヴィお嬢様。名前をきちんと呼んで。」
たまっていた涙が、堰を切ったように流れ出した。苦笑いをしながらアランがハンカチを手渡す。あら、意外と紳士ね。
「はい!これからよろしくお願いします。シルヴィお嬢様!」
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「調べた結果、やはり没落していた。言っていたことは全て事実だな。」
その夜、ナタリーが下がった後、アランが部屋に入ってきて私に告げた。
「あら、調べたのね。」
「当たり前だろ。あの父親が連れてきた女だ。警戒するに決まっている。お前は変なところで箱入りだな。」
ふふ、箱ねぇ。
「まあ、悪意があるかどうかなんて、目を見ればわかるわ。私がどれだけの悪意にさらされながら生きていると思う?」
無言のアランの眉間にしわが寄る。しわが刻まれるわよ。
「でも、私のためにありがとう。」
「…ああ」
小さくそう言うとアランは扉から出て行った。
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