第26話

「今日は、国境近くの結界を修復に行くけど、アランはどうする?」


ナタリーに身支度を手伝ってもらいながら、アランに問いかける。



「行くに決まってんだろ?なんだよその質問。2度とするな。」


決まっているのね。ふふ。



「そうだ、お前の叔父が、今日その場まで来るらしいぞ?」

「叔父様が?」


「ああ、お前の叔父はなぜか王家や公爵家に警戒されていて、この国に入るのに手続きが面倒らしいから、なんでも、姑息な手を使ってどうにか来るといっていたぞ。」


姑息って?



「それにしても、あなた、叔父様と連絡を取り合っていたのね。」

「ああ、非合法な手段でな。」



連絡を取り合うのに非合法って?


「…まあ、あれだ、聞かないほうがいいぞ。」



********************



「ーヴィ、シルヴィ!!!」


満面の笑顔で手を振り、こちらに走ってくるのは、叔父様!!



「シルヴィ、顔をよく見せて。ああ、姉上に似ている。とてもきれいになったね。」



ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。



「叔父様、私に会いにわざわざ?」


「ああ、国境近くまで来るとアランに聞いてね。なに、大変じゃないのさ。転移魔法で近くまで来て、あとは商人に金を握らせ、隠してもらってこの国に入ったんだ。」



「転移魔法が使えるんなら、そのままここまで来たらよかったじゃねえか。」


叔父様から私を引き離しながらアランが言う。



「もう、君の口の悪さは相変わらずだね。実は、この国のとっても力がある大聖女の結界は、他国からの侵入も防いでいるんだ。だから国境近くまでは来れても、弾き飛ばされちゃうんだよね。」


「なんだかすみません、叔父様…。」


「はは、だから、シルヴィが結界にちょこっと穴をあけてくれたらすぐにでも、この国を一緒に出られる。…あとは、どうとでもできる権力が私にはある。」


叔父様が真剣な表情で私を見つめ、返事を待っている。



「ありがとうございます。叔父様。必ず早めに隣国へ行きますわ。でも、今ではないのです。私、まいた種に水をやっている最中なのです。芽を出し、花をつけ、付けた実を刈り取るまでは、この国を離れるわけにはいかないのです。」



「は?お前は令嬢なのに農業をやっているのか?」

アランはよくわからないといった表情だ。

そんなアランに叔父様は大笑いだ。


「っははは、はぁ~そうか、そういうことならわかったよ。それにしても、アラン君は、貴族的な言い回しの勉強もしなきゃだね。」



自分一人がわかっていない状況に不機嫌な顔をするアラン。ふふ、睨まないで、あとで教えてあげるわ。だって協力してもらわなきゃいけないのですもの。



「まあ、それは置いといて。シルヴィに実は、お願いがあって。1日だけ隣国に行く気はない?」


叔父様がさわやかに笑う。




『気をつけろ、この顔の時はやべえんだこいつ。』




アランが、小声で耳打ちをする。あら、叔父様とずいぶん仲良くなったのね。

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