第24話

回想~シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢


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これから始まる学院生活。

変わらず居場所がない公爵家。厳しさを増す王太子妃教育。聖力を酷使し続ける大聖女としての仕事。


気が重いわ。



幼い頃、頻繁に遊びに来てくれていた叔父様も、お母様が亡くなってからは一度も会いに来てくれない。お母様と同じく愛情深い叔父様が、誕生日プレゼントの一つも送ってこないなどありえないとは思うが。おそらくは父だろう。私の爵位を奪いたいのか、お母様によく似た私を孤立させたいのかはわからないが。思い切って隣国へ…行けるわけもないか。王太子の婚約者であり大聖女ですもの。国が出してはくれないわ。




自分の置かれている待遇に冷めた笑いを浮かべ、ぼんやり外を見ながら帰りたくもない公爵家への道のりを馬車に揺られる。



「止めて!」



路地裏のだれも通らないであろうその場所に、何かを見つけた。


「危ないです。ご令嬢が近づく場所では…おやめになった方が…」




御者が止めに入るが、かまわず進む。『私に何があってもお前の罪は問わないわ。』そう言うとあっさり止めるのをやめた。自分の身のほうが大事なのか付いてくることもしない。


令嬢の独り歩き、笑っちゃうわね。


ああ、やっぱり人だわ。どんな生活を送っていたら、こんな場所に、けがだらけで座ることになるのかしら。



しゃがんで顔を合わせる。


綺麗な瑠璃色の瞳、宝石のラピスラズリのようだわ。目が離せない。藤色の髪もきれい。傷から流れる真紅の血。痛々しいわね。あら、私、久しぶりに色を認識したわ。ふふ、ずっと灰色の、いえ、真っ暗な世界にいたもの。



それにしても、口が悪いわね。市井のものって皆こうなのかしら。

この怪我だらけの人間の絶望は、私とどのくらい違うのかしら。



『ない、ない、ない。』ーそうなのね、私は有り余るものがあろうと、絶望を感じるのに、まるで私が幸福の中にいるような目つきで睨むのね。面白い。


もう少し話がしたいわ。冷たくきついことを言われているのに、なんだか笑いがこみあげてくる。こんな気持ち久しぶり。あーおかしい。世界に色が戻ってきたわ。




付いてきて。私を見て。今日の私を覚えていて。お前の何が不幸だと笑い飛ばして。



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学院に入学して半年、とうとう私の味方は誰もいなくなった。


ああ、あの瑠璃色の瞳は今、何を見ているかしら。無茶なことを言った覚えはある。逃げていてもおかしくはない。そうね、帰ってこなければ、みんなを道連れに壊れてしまうのもよいだろう。



邸のサロンの前を通ると、ミュラー侯爵と聞こえた。まさか…



浮足立つ。期待を抑さえ、扉を開ける。




鍛え上げられた体、秀麗な瑠璃色の切れ長の目、たたずむだけで威圧感がある、私のラピスラズリがいる。



ふふ、ああ、また世界に色が戻ってきたわ。





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