第20話
ーダニエルー
あの冊子に私のことは書いていなかった。
学院に入学後、王太子やミラベルからシルヴィの話を聞いた時には、信じられない気持ちでいっぱいだった。王太子の側近となり神殿に付いていった際に、聖女たちから聞いた話は、2人から聞いたものと全く同じで、こんなに多くの人が言うのだから疑いの余地はないと信じた。
辺境伯領でのシルヴィとの違いに違和感をもったが、その噂は、俺の中の正義が許さなかった。
話しかけたさそうにしているシルヴィを無視したのも1度や2度ではない。そのうち視界にも入らなくなったが、学院生活も楽しく、次第にシルヴィのことなど忘れていった。
『皆様への嫌がらせ』、間違いなく俺も”皆様”の中に入っていると思ったが、俺のページはない。…そうだよ!俺は辺境伯領で妹のようにかわいがってやったんだ。そのことを忘れていないのだ。当然だ。
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父上から辺境伯領に今すぐ帰って来いと連絡がきた。なにごとだ。
邸に着くなり、父上に顔面が歪むほど殴られた。
「お前と言うやつは!!あんなに言い聞かせたではないか!」
は?何のことだ?理不尽に殴りつけた父上を睨む。ほら母上も号泣しているではないか。
「ああ、息子をこんな風に育てた私が悪いのよ。シルヴィ嬢は、何度も辺境伯領のために足を運び、結界を張ってくれたというのに。」
号泣の理由が何やら思っていたのと違う…。
「この愚息が!聖女たるシルヴィ嬢を任せたとお前に言ったではないか。可哀想そうに婚約破棄をされ国外追放だと。この辺境伯領まで噂が届いている。しかも、お前はかばうどころか王太子の味方をしたと言うではないか。」
「俺は、側近です。当たり前ではないですか。それにシルヴィには、悪い噂がたくさんあり、父上と母上が知っているような女ではなかったのです。俺もすっかり騙されていた!!」
怒りの形相のまま、父上が静かに話す。
「おい、本当にその噂は事実だったのか?」
……。
「まあ、いい。とにかく、今辺境伯領は、結界で守られてはおらぬ。これから魔獣の量も格段に増える。お前も、討伐に参加しろ。」
「なっ!?結界がない?あいつ結界を解きやがったのか。はっ!これが俺への嫌がらせ?領民の命を危険にさらすなんて何て愚かな奴だ!!!」
再び、違う頬を殴られる。
「愚かはお前だ!!国外からどうやって結界を張る!今まで結界が崩れずにいたこと奇跡であり、聖女の力が強い証拠だ。はっ!せめて、討伐では、あのシルヴィ嬢の護衛くらいの活躍を見せろよ。まあ、無理か、お前では。あの護衛は、鬼のような強さだったからな。せいぜい王太子のために磨いたごときのその剣の腕で、1匹でも多くしとめろ!」
父上と母上を大事に思っていたからシルヴィは、私に嫌がらせをしなかった…。
いや、違うな。俺は、嫌がらせをされるほど良くも悪くもシルヴィに関わらなかったではないか。
シルヴィにとって俺は”嫌いの対象ではなく、関心がない”ということだ。
俺は、その程度の男…。それが答えか。
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