第15話
回想~シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢~
王家から専属の侍女も護衛もいないのはいかがなものかと言われた。
なぜ、それを保護者たる父ではなく私に言うのだろう。
まあ、国王陛下とのあの約束もあるから、別に構わないのだけれど。
その旨、父に手紙をしたためる。
”公爵家の者は私が雇っているものであり、お前に回す人員はない。王家に相談しろ。”
王家に言われたのに、また王家に相談しろと…。
ああ、どちらにも期待などできないってことね。まあいいわ。別にメイドや侍女などいなくても自分のことは自分でできるようになったし、護衛なんかいなくても、発現した聖力と魔法のおかげで、自分の身くらい自分で守れる。いつ死んでも誰も困らないくせに、みんな勝手なことばかり…
「なんだ、今帰ってきたのか。」
こんな時間にお義兄様に会うなんて、珍しいこともあるものね。
「なんだその眼の下の隈は…全く。お前と同じ年のミラベルを知っているだろう。彼女は男爵令嬢という身分だが、公爵令嬢のお前より身だしなみに気を付けている。恥ずかしくはないのか?」
ミラベル…ねぇ…。
「その顔で王宮に行っているのか?私は、王太子とも仲が良いのだ。次期公爵の私に恥をかかせないでくれ。」
言いたいことだけ言って去っていく。心配してもらおうなどとは思っていないが…会話にもならないとは。
部屋に戻る。案の定お義兄様が持ってきたであろう、執務に関する書類が積み上がっている。やれと、一度も言われたことはないが、仕上げたものがいつの間にか部屋から消えているところを見ると、侍従長あたりが持って行っているのだろう。
今日も眠れなさそうだが、仕方がない。そもそも、現公爵である私の仕事なのだから。
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「して、シルヴィのお願いとは何であろう。」
品定めをするような威圧に満ちた表情。
「はい、まずは確認を。私の母は、正式なウィレムス公爵でありました。その娘の私は、成人していないため公爵ではありますが、現時点では保護者である父が公爵代理を行っている。ここまで合っていますでしょうか。」
「ああ、合っている。しかし、婚姻後は、公爵の爵位をそのまま持つことは、いくらシルヴィの願いであってもできぬぞ。」
よかった、まだ間に合った。
「ええ、それは理解しております。お願いと言うのは、私が婚姻するまで、私の公爵の地位を守っていただきたいのです。例えは、公爵を譲るなどの書類が王宮に届いたり訴えがあったりしても、私のサインによく似ていても決して受理しないで…いえ、受理したかのように見せかけてほしいのです。」
「それは、そなたの父がそのようなことをすると…。」
国王陛下が眉をしかめる。
「それはわかりません。可能性の問題です。享受されるべき国の保護が受けられないのであれば、せめて今の私の身分、地位を守ってほしいのです。」
「ふむ。…わかった。文官長並びに宰相だけにこのことを伝え、約束が反故されないようにしよう。」
「ありがとうございます。」
よかったわ。頷いてもらえて。これで、公爵家にも種をまくことができた。
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