第14話

~聖女&ミラベル~



「診られないとはどういうことですか!」


長時間待っていた民から悲鳴にも近い声が上げる。



そんなことを言われても、たかだか風邪の症状を2人がかりで治しているのだ。聖力などとっくに限界だ。午前中、皆の聖力が持っただけでも奇跡に近い。



「ずっと並んで朝から待っていたんだ!!」


「息子はすごい熱なのです。何とかしてください。うう。」



罵倒や悲痛の声にも耳を貸す元気はない。



「み、みなさま、頑張りましょう!!困っている民が待っています。私もできることをしますから。」


は?聖力のない男爵令嬢に何ができる!もう限界の人間に頑張りましょう、ですって?民が?何様なの




余裕のない聖女の私たちには、力のないミラベル様からの無責任な励ましは、何も心に響かない。



「あー、ミラベル様、明日から来なくていいですよ。私たちも今までのようにたくさん働けませんし。」


「そんな!困っている人がこんなにいるのに。私も未来の王太子妃としてできることはします!!」


「…だから!!!大聖女様がいうには、私たちには、砂粒のような力しかないのですって!!大聖女様のお力で宝石のようにしていただいていただけのこと。こんな、こんな力じゃ、長時間頑張ることはできないし、今まで通りなんて無理よ。そもそも無償で治しているのよ。そんなに困っているんだったら、高い金でも払って薬を買えばいいじゃない。私たちのせいにするなんて。」


怒りに任せて一人の聖女がまくしたてる。


「ひどい…」


声にならない声で、ミラベル様がつぶやく。



「ひどい?お優しいことですこと。ああ、そうね、民にお恵みになったら?私たちが力を失ったのはあなたが大聖女様を追い出したからよね。」



言いすぎだとは思ったが、その通りだと思う自分もいる。



「そんな、私だけ…皆も祝福してくれたのに。」


「だって、こんなことになるなんて思わなかったのだもの。知っていたらこんなことには…。」


とうとうみんなが泣き出した。




「誰でもいいから、何とかしてくれ!」

民の叫びは止まらない。


「終わりったら終わりよ。あとは薬屋に行くといいわ、そちらのご令嬢がお恵みになるそうよ。」




『聖女たちが力を失った』噂が広まるのはあっという間。


********************

~神殿長~


大聖女がいなくなった。



まずい、まずいぞ




民の診療は、他の聖女に任せ、大聖女には貴族の治療を極秘に行わせていた。勿論その貴族には大聖女の評判は流さないよう念を押した


あの王太子、なんてことをしてくれたのだ。大聖女にこっそり診させていた貴族からの献金が手に入らないではないか。ああ、体調が悪くなった貴族から苦情もどんどん押し寄せる。



他の聖女を代わりに行かせたいところだが、全て者がほぼ力を失っただと?能力強化?そんな力は大聖女から聞いていない。知っていたら使い道がたくさんあったというのに。役にも立たない聖女を抱え、いったいどうしたら…



民や貴族からの不満、王家からの浄化の要請…


浄化の要請!そうだ、全ての聖女を浄化に向かわせよう



なに、全滅したとて、それならそれで、もう聖女はいないからと民や貴族を抑えられる。それに王家からの弔慰金が神殿にも入る。聖女の数からすると…結構な金額だな


その間に、大聖女を探し、戻ることができるよう手をまわさねば。




「浄化に行けですって?」

聖女たちを呼び、浄化に行くよう命令を下す。



「そんな、無理です。力を失ったのです。あんな危険な場所、私たちに死ねと?」



その通りだ。




「今回は王宮の騎士たちも一緒だ。」


「じゃあ、まだ、魔物がいるかもしれないってことですよね!!」



勘がいいな。



「じゃあ、どうする?力を失った聖女に今まで通りの報酬は出せない、いや、そもそもその程度の力で聖女と言っていいのか?存在意義はあるのか?」




「そんな、今更家には帰れません。」


「私も、私の給金を家族があてにしています。」




そうだよな、ほとんどが平民出身だ。



「ならば行け!誰かが行かなくてはならぬのだ。『神殿での業務は、私たちの力で何とかなっている状態』なのであろう?自分たちの言葉には責任をもて!」




泣き出し、膝から崩れ落ちる聖女たち。




「ああ、そうだ!例の男爵令嬢も連れて行ってよいと国王陛下からのお達しだ。」




聖女たちの目が薄暗く光る。


こうなったら道連れだとでも、思っているのだろうか。

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