第13話
回想~シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢~
「大聖女様、神殿長がお呼びです。」
ああ、人に名前で呼ばれたのもいつのことだっただろう。
邸に帰っても家族とは会わず、王太子をはじめとした王族の方々とも当然会わない。使用人はお嬢様、王宮で会う教育係は公爵令嬢。ここでは聖女。私の個は消えてしまったのだろうか。
「ウィレムス公爵令嬢、最近出現した能力についての確認です。以前出現した能力以外にも何か予兆などはありますか。」
「残念ながら…」
神殿長が、これ見よがしに大きなため息をつく。
「全く嘆かわしい、大聖女は本来、聖魔法のほかにも多くの希少な魔法を身に着けます。神への祈り、修練何もかもが足りないのではないですか?」
足りないのは時間です。とは言えまい。
「…申し訳ありません。」
「とにかく、少しでも予兆を感じましたら、すぐ言うのですよ。」
報告したところで認められもせず、当然のように力の搾取をされる。言う必要はあるのだろうか。
********************
聖女たちが、集まって私の悪口を言っている。
ああ、こうやって悪口を言うなら、せめて周りに気を付けたらいいのに。通りたいのに通れやしない。
一向に収まらない大きな悪口大会を聞きながら、ため息を吐く
ねぎらいをかけようが、差し入れをしようが、私を見る目は冷たい
能力強化の魔法が発現した時、真っ先にを聖女たちに魔法をかけた。
聖女たちが気付いたら、実は私がやったと伝えよう。感謝されるのか尊敬されるのかと夢見たこともあったが、今となっては、全く違う反応が思い浮かぶ。
しかし、治療を待つ民のことを思うとうっかり魔法も解除できない。ああ、聖力だけが奪われていく。
14歳のころ、そう、あの男爵令嬢が来てからは特に風当たりが強くなった。
男爵令嬢がうらやましい?そんな感情はない。何の力もないのに、周りから愛される珍しい生き物。ただそれだけだ。
噂では、王太子と頻繁に会っているそうだ。惹かれ合う2人が幸せになる未来を、誰もが願う。権力をかさに着て、婚約者の座に居座る私。来年ともに入学したならばその噂も激しくなるだろう。学院なんか、早々に卒業してやる…。
努力が、報われないことはわかっていたことではないか。私はいったい何にしがみつき、誰に認めてもらいたいのだろう。
あの男爵令嬢も噂にまんざらでもない様子。…王太子妃になりたいだなんて本気で思っているのだろうか?
そもそもあの王太子のそばにいたいなどと…ああ!ならば、代わってもらえばいいのだ!
王太子と真実の愛で結ばれた、万人に愛される、美しく優秀で、王妃陛下にも気に入られる非の打ちどころのない令嬢になってもらおう。
私は影、私のそばに種をまいても芽は育たないの。だから、光り輝く男爵令嬢、あなたのそばに種をまくわ。
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