第12話
~王太子~
嘘だ嘘だ嘘だ、いったい、何がどうして、こんなことに。
何度朝を迎え、何度鏡を見ても、顔をこすっても見慣れた顔はそこにはない。
うそだ!これが本当の私?
何ということだ…父上に全く似ていないではないか。
まさか本当に、私は、父上の子ではないのか?父上と母上は、真実の愛で結ばれた相手ではなかったのか?私は愛の結晶ではないのか?
母上に確認したくとも、あの場で気絶した後、部屋に引きこもっていて誰にも会おうとしない…。あの場にいた者たちが、口々にどのような話をしているのか想像しただけで、気持ちが悪くなる。
……あの女が魔術や呪いをかけた。そうだ!絶対そうに決まっている!!こんなことがあっていいはずがない
********************
魔術師団長を呼び、私の状態を確認させる。
頼む、そうであったと言ってくれ。魔力を感知したと。呪いがかかっていると。
「申し上げにくいのですが、そのような反応はございません。」
「…そんな」
願いもむなしく、今の姿が通常であると、知らされた。
震える手で、冊子を恐る恐る開く。
1ページ
ー王太子が国王陛下に徐々にそっくりになるよう魔法をかけたー
ー王太子が、王妃陛下のご実家の元執事見習に似ていることを誰にも内緒にしたー
…ここまでは見た。
2ページ
ー王太子のことを愛していると勘違いさせたままにしておいたー
…愛していなかったと?…嘘だろ?暴言を吐こうが、ないがしろにしようが、いつも微笑んでいたではないか。お茶会もエスコートもドタキャンしても、何もなかったように、接していたではないか。私がどんな態度でも嫌われたくなかったのだろう?婚約者の座に縋りつき私の愛を求めていたのだろう?
…そうではなかったとしたら、なんということだ…そうか、そうなのだな、愛する私が不利になるから、幻覚魔法をかけた…そういうわけではないのだな…
ー親友の隣国の皇女が王太子のことを気になっているようだったが、男爵令嬢のことを教えたー
ー婚約者の座を渡すことはたやすいが、彼女の幸せのために現実を教えたー
うそだろ!あの、宝石姫か?親友なのか?パステル調のライラックのような色彩のラベンダーアメシストの瞳はみる者を魅了してやまないという、あの隣国の姫が?私を!!
…いや、私にはミラが、そうだ、口惜しくなど…しかし、あの愛らしい姫、他国とのつながり、盤石の地位と宝石姫を手に入れたという名声…いや、ちがうだろ、私にはミラが、運命の相手がいる、思いは揺らぐことは…ない…
ー婚約者への予算を男爵令嬢に使われたが、国王に伝えなかったー
まあ、シルヴィが知っていてもおかしくはない。何も贈っていはいないからな。国王に伝えないことのどこが嫌がらせだ?むしろ称賛してやる。いや、でも、卒業パーティでばらしていなかったか?
ー王太子の仕事を肩代わりすることを国王に頼まれたが、そのことを王太子に教えていないー
ーこうなったらついでだと、王妃陛下のたまっている仕事も引き受けたー
父上が頼んだ?普段私がやっているもので全てではないのか?
本来はいったいどれくらいの量があるのだ、いやまて、シルヴィは、いったいどのくらいの仕事をこなしていたのだ?
…!!これで私のことは終わりか!?なんだ!!私の姿のことは最初の部分にしか書いていないではないか。くっ!私の容姿などとるに足らないとでも言いたいのか!
言いようのない怒りを部屋の調度品にぶつける。何もかも壊してやりたい。
『王太子様、国王陛下がお呼びです。』
はっ!だめだ!嫌だ、今は会いたくない、何もかもが崩れてしまうそんな気がする。私はどうなるのだ。どうすれば、どうすればいい。
「熱があり今はお会いできないと伝えてくれ。」
呼び戻そう…。魔法をかけたというならもう一度かけさせよう。閉じ込めて、一生かけさせよう。こんなのは私ではない!元に戻させるのだ。あの場で魔法をかけられたので、捕らえて解かせたことにすればいい。そうだ、それがいい。父上に会う前に何とかしなくては、私は終わりだ。
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