第11話

聖女の力が出現しても、教育が増えるのみで空いた心は埋まらない。王太子妃教育がなくならないんじゃ、私にとっては余計な力だったわ。



治療ができようが、浄化ができようが、聖女として当然のこと。ここでも、褒められることはなく、さらに上を求められる。3時間以上寝たのはいつのことだろう。




歓迎されない王宮、能力を搾取するだけの神殿。私はただただ無になり 己のやるべきことをこなすのみ。



「お前なんだその顔色、お化けみたいだな。ああ、いやだ。私の視界に入るな。」


ばったり会った王太子に開口一番そんな暴言を吐かれる。


「私、国王陛下に呼ばれておりまして、先を急ぐので失礼します。」



「っ!生意気な!ああ、聖女の力が発現したそうだな。だからそんなに偉そうなのか?自慢だなんて狭量な女だな。」



自慢なんていつしたのか。


あら?私も王家の血を引く公爵家だから、髪の色は王家特有のきらめく金だが…。王太子殿下の髪の色って?太陽の下では気付かなかったけど、瞳も…もしや。…ああ、まったく、これ以上の面倒ごとはごめんだわ。そうだ、王太子に幻覚魔法をかけるのはどうだろう。まだ発現したばかりの不安定な力だが、練習として試してみよう。うまくいったら、自分にもかけ、違う自分として生きなおすのもいいだろう。



そんなことを考えていたら、鬼の形相の王妃陛下がこちらにかけてくる。


パアーン。大きく振りかぶった王妃陛下の右手が私の頬を打つ。


ああ、耳がキンキンする。


「あなた、セドに自分の力を自慢したですって?私の息子を下に見たってこと!!!まだ自分の立場が分かっていないようね。あなたは影なのよ。光り輝くこの国の王太子の影。輝くことは許されない!!!」



言いたいことを一気に言って、立ち去っていく。



影か…ふふ。人々に付き従うだけの影。踏まれても文句も言わず、確かに存在しているのに誰にも認識されない。ああ、言い得て妙ね。


私はいつまで影なのかしら、世界は真っ暗だわ。


********************


「国王陛下にご挨拶いたします。」


約束の時間に何とか間に合った。



「ん?シルヴィ、そなたの頬、いったいどうした?」


「いえ、何でもありませんわ。お気になさらず。」


あなたの妻がやりましたって言っても信じないでしょ?


「…そうか、帰りに王宮の医務室に寄るといい。さて、実はシルヴィにお願いがあってな。」


「何でございましょう。」


「王太子のことだ。あの子は、あまり政務が得意ではなさそうでな、いや、得意になってもらわなければ困るのだが、少しシルヴィに代わりにやってもらい、徐々に王太子に引き継いでいってもらいたいのだ。」


私に寝るなというのか?無言を肯定と受け取った国王陛下が続ける。


「それとな、シルヴィに出現した聖女としての能力だが、実は大聖女と言ってもいいものだった。これは、国を挙げて保護しなければならないものだが、これから大聖女として身に着けた力や功績をしばらくは黙っていてほしいのだ。王太子が劣等感を持たないように…。」



親バカですわね。うらやましい限りですが。国の保護…私に必要なものだと気付かれないのですね…ああ、この人も私のことなど見やしない。これで、とうとう私は、国王公認の”影”になったのだわ。

  


…ならば


「わかりました、お引き受けする代わりに、私も陛下にお願いがございます。」

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