第10話
回想~シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢~
5歳のころ、お母様が亡くなった。
公爵家の跡取りであったお母様。本来は、弟である叔父が継ぐはずだったが、恋をした相手が隣国の一人娘ということで婿養子となったため、お母様が快く跡を継いだのだという。政略結婚のお父様とは、いい意味でも悪い意味でも貴族の夫婦らしいものであった、そう子供のころの私は記憶している。
世間一般の夫婦愛情とは違っただろうが、それでも、何の疑問も持たずに生きてこられたのは、母からの愛情が溢れんばかりだったからだ。
生活が一変したのは、お母様が亡くなり、義理の母と義理の兄をお父様が公爵家に連れてきてからだ。お義兄様は、お父様の実の息子だそうだ。ああ、なんだ、そういうことね。
その日から、私は、家族を失った。家族での食事、お出かけ、記念日。そこに私は存在しないからだ。使用人たちは、一新され、家族に存在しないものとして扱われている私は、使用人の中でも存在しないようだ。
かろうじて人としての生活は保障されたが、その程度だ。部屋の前に食事が置かれ、身だしなみや着替えなど自分のことは自分でやるしかなくなった。家でだれとも話さない日なぞ、珍しくはない。
父との会話は一切なくなり、用事があるときは同じ家にいるにも関わらず手紙を書くように通達された。
家がある、食事がある、生きていける、それが何なのだ。大きく穴の開いた心に必要なものは、それではないと私の中の誰かが叫ぶ。
7歳で王太子の婚約者に決まったと知った時には、これで私にもようやく居場所ができたと喜んだ。
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「貴様が私の婚約者か?」
貴様?
「ふん、先に言っておくが私は父上と母上のような真実の愛で結ばれた人と人生を歩むつもりだ。母上もお前は仮初と言っていた。まあ、短い付き合いだとは思うが…せいぜい励めよ。」
愛されない家族からの逃げ場。私の居場所は、もろくも崩れた。婚約者とは慈しみ支え合うものだと思っていたのに…。今日のためにおめかしをしたピンクのドレスをしわになるまで握りしめる。
”政治的なバランスで選ばれただなんて息子がかわいそう”
”結局私のように、真実の愛を息子は見つけるわ”
”期待しないようにね。でも、その日が来るまで教育は頑張らなくてはいけないわ。公爵家の娘だものわかるでしょ。頑張ったら側室くらいにはなれるかもね”
暗記してしまうくらい繰り返される王妃陛下の言葉。
『ああ、お茶会も別にいいわよね。百歩譲って側室の未来だとしても。そんなに交流を深めなくてもね。そうでしょ?』
王宮にてただただ、教育係から厳しくされ、膨大な知識を教え込まれる日々。ダンスの相手も教育係。食事もお茶会の模擬練習の相手も教育係。できて当然、できなければ叩かれため息をつかれ、…私は誰のために何のために勉強しているのか。
10歳の時、私に聖女の力が発現する。
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