第9話

「急げ!正気に戻ったやつらが来るぞ。」


護衛は、公爵令嬢シルヴィの手を引き、学院の正門に向かって全力で走り出す。


「そんなこと言われても、この靴じゃこれ以上早くは無理よ。」


「あーーーくそ!なんでそんな靴。逃げるのわかっていただろ!」


アアランは、シルヴィを軽々と横に抱き上げ先ほどとほとんど変わらない速度で走り出す。




「ふふ、アランは力持ちね。あー、とっても楽だわ。」


横向きに抱えられ、足をぶらぶらさせながら楽しそうに笑う。


「ふん、お前なんか羽より軽い、俺でなくても軽々だ。」


「お、お二人とも早く!早く!!」


侍女が馬車から必死で手招きをしている。アランは軽やかにシルヴィを抱きかかえたまま馬車の中へと滑り込む。



「出してください!!」


揺れる馬車。どんどん学院から離れ、追手も見えないことに安心した侍女のナタリーが、シルヴィに話しかける。



「シルヴィお嬢様、会場はどうでした?」


「ふふ、想定通りすぎて、笑ってしまうわ。でも、今日で終わりだと思うとなんだか、あっけないというか寂しい感じもするわね。」


「はっ!俺はもっと早くにこの国から出てもよかったと思うがな。」


横柄な護衛、くすくす笑う令嬢、あわあわする侍女



「せっかく用意したのだから、もう少し反応を見て楽しみたいところだったけど…。」


「何を言っている。あれが限界だ。あのままいたら、一生王宮から出してもらえないところだったぞ。」


一緒に行くことができなかったナタリーが興味深そうに質問を続ける。


「どこまで答え合わせをしたのですか?」


「うーん、ちょっとよ。でも、あの冊子の続きを見る勇気が誰かにあるかしら。」



「ないだろうな。王太子があれじゃあ。くくっ」



腹を抱え笑い出す護衛。




「自分たちの頭では理解できないことがこれからあるはずよ。冊子を見らざるを得ないわね、きっと。」



恐る恐る見る者たちのことを思い浮かべているのか、令嬢の口元にも笑みが浮かぶ。




「連中は、邸に一度帰ると思っているだろう。が、このまま予定通り隣国でいいな?」


「ええ、勿論よ。でも、アランはともかく、ナタリーはこのまま私と隣国でいいの?」



「アレンはともかくって何ですか!?当然ついていきますよ!!まさか、私だけ置いて行くつもりだったのですか?嫌です、無理です。しがみついてずっとお傍にいますからね。置いてこうとしても。」



仲間外れなんて…。と、口をとがらせて拗ねている。




「ふふ、言ってみただけよ。今日は3人でパーティーね。解放感で、今夜は眠れないもの。」

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