第5話
「は?いや、罪を素直に認め、黒幕であるお前の名前を素直に吐いた。未遂だったこともあり、処罰はお前と同じ国外追放だ。貴様…家族の命を盾に取り、善良な商会の息子に犯行を命令したそうだな。」
『なんて、ひどい』令息令嬢たちがまた、ざわめきだした。
「私は、本当にそこの令嬢を殺したかったのでしょうか?」
「…何を他人事のように言っている。」
「そうですよ。私、本当に怖くて、あのまま殿下がいらっしゃらなければ…」
再び震え出したミラベル嬢を、殿下が抱きしめなおす。
「あら、都合よく殿下が傍にいたのですね。」
「いい加減にしろ!傍にいて何が悪い。私も証人だ。罪人と証人がいる以上、言い逃れはできんぞ。」
とうとう殿下がいろいろ開き直った。
「ならば、その者はやはり死刑にいたしましょう。未来の王妃の命を狙い、公爵令嬢である私に罪を擦り付けたのです。あ、ついさっきまでは、私も未来の王妃でしたわね。ふふふ。ならば、死刑でも足りませんわ。」
「な、なにを!?どさくさに紛れて、自分の罪をなかったことにするな。そして、何度も言わせるな、お前の罪は揺るがない。」
公爵令嬢の『おかしなことをおっしゃるのね』の顔が、底知れぬ恐怖を増幅させる。
「ふぅー、殿下?よくお聞きください。他の意図があったのなら別ですが、私が本当にそこの令嬢を殺したいのなら、まあ、自分で殺ってもいいのですけれど、このアランに命じますわ。そんな人を殺したこともない善良な商会の息子だなんて。ふふふ。ねえ、アラン?」
優しく幼子に語り掛けるように殿下に向かって語りかけたあと、護衛のほうを振り向く。
「はっ、ご命令とあらばどのような殺し方でも。たかだか一令嬢など魔物よりも容易い。確実に仕留めます。証拠を残すような無様な真似など決してしません。」
こわ!
ミラベル嬢の顔色が信じられないくらい青くなっていく。倒れるのではないか?
「殿下?私の聖魔法、生物を滅する力があるのです。ほら、薬も多すぎると体に毒でしょ?それと同じ。このアランも、魔獣を殲滅するだけの剣技があるのですよ?それなのに、そんな簡単に口を割るような信用のおけない者に自分の命運をかけます?再度調査することをお勧めいたしますわ。」
命運…かけないな…完全に言い負けた殿下たち。
「…じゃあ、貴様の言うミラへの嫌がらせとはなんだ?」
「殿下また答えがひとつもあっていなかったので、答え合わせを致しましょう。8ページをお開きください。」
力なく殿下がページをめくる。
「私、実は料理が趣味でして。」
「は、何の関係がある?」
めくる手を止め、殿下が尋ねる。
「まあまあ、聞いてください。神殿で、民に配る炊き出しのスープ。それをすべて作っていたのは、実は私なのです。」
顔を見合わせる聖女たち。
『あなたが作ったんでしょ。』
『え、準備してあったからってっきりあなただと。」
と確認し合っている。
「スープには、いつも幸福感が高まるように祈りを込め、気力が満ちるよう癒しの魔法もかけましたのよ。」
「…良いことではないか?それの何が…」
訳が分からないという顔の殿下。
「ただスープを盛りつけ配っているだけの令嬢が、民には輝く聖女に見えたでしょうね。」
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