第4話

「嘘をつくな!他の聖女に押し付けたと聞いたぞ。」



「そうですね、時間が足りない時はそうしていました。そもそも国境付近まで出向き、このアランと魔物を倒した後、結界を張り、被害が出ないようにしているのは私です。浄化も1日あれば余裕なのですが、隣国の国賓とのお茶会の準備やらなにやらを皇后さまに押し付けられることも多く…私、ものすごく多忙なのです…」




魔物を倒し、結界を張る!?



「欠損を治せるほどの聖魔法、短時間での浄化、この国を覆う結界などの私の力。これらは国王陛下と神殿長様のみが知る国家機密です。」



聞いてよかったのか?国家機密を聞いてしまったという事の重大さに、卒業生たちに動揺が走る





「い、嫌がらせ、そうだ、お前も認めただろ。ミラの教科書を破く。いい気になるなとドレスを切り裂く。権力をかざし自分の都合のいいように仕向ける。よく人目を避けて泣いていたのだぞ!最後には、私と心惹かれあっていることに嫉妬し、暴漢に襲わせ、命を狙った!」




その時のことを思い出したのか、恐怖に震え泣き出すミラベル嬢の腰を引き寄せる王太子。顔を寄せ『大丈夫だ』と微笑んでいる。



「ちょっと質問よろしいですか?」



・・・・・・。



「質問だと?」


「はい、教科書とドレスはどこに置いていたのでしょう?」


「教科書は学院に決まっているだろう!ドレスは…ドレスは?」


ミラベル嬢に確認するように目線を送る。


「ど、ドレスは、殿下が贈ってくれたものを生徒会室に置いていたのに盗まれ、ぼろぼろになって返ってきたのです。」


「それでしたら、私ではありませんね。私、実は昨年卒業しておりますの。」



「「「「「は?」」」」」



「飛び級ですわ。今日は、欠席など決してしないようにと王太子殿下がおっしゃるものですから渋々来たのですわ。王家はすでにご存じのはずですのに…可笑しいですわね。ほら、皆様と学院でお会いしたことはこの1年ないでしょう?」



殿下の周りで側近たちが「そうだったか?」と確認し合っている。いや、少なくとも義兄が、初耳のような顔をしているのはなぜだ。



「そ、そうだ、学院に残っている貴様の取り巻きにやらせたのだろう!」



「ふふふ、嫌ですわ、私、評判が悪くこの国には友達も取り巻きもいないこと、殿下がよくご存じでしょう。」



自虐のはずなのに、生き生きと語る。

 


「殿下?知っておりました?婚約中の浮気行為はいかなる理由があろうとこの国では、厳罰の対象です。私、先ほどまで王太子殿下の婚約者でしたのに、私と心惹かれあっていることに嫉妬しとは何でしょう?殿下から贈られたドレスとは何でしょう?理解に苦しむのですが?お答え願えます?」


「いや…あの…そうだ!この婚約は王家の許可を取ってすでに破棄され…」



「まあ!殿下ともあろうお方が、権力をかざし自分の都合のいいように仕向けようとしているわけではないですよね?」


言質を取られてしまったな。王太子殿下。


「人目を避けて泣いていた?人目がないところで泣いている令嬢を頻繁に見かける確率はすごいですね。人目がないことろで2人はその後何をしていたのでしょうか。婚約者がいる身ですので契約違反ですわね。」



「勘ぐらないでください。相談に乗ってもらっていた時は本当に仲の良い友達で…」


涙を流しながら訴えるミラベル嬢。


「ですが…今は違うのでしょ?仲のいい友達の胸に顔をうずめる?仲のいい友達の腰に手をかけ引き寄せる?自分の色のドレスを贈る?婚約破棄した瞬間に仲の良い友達が愛する女性に代わるのですか?もうすでに愛し合っているんですよね。ほら、殿下『愛する』とおっしゃっていましたし。愛称で呼んでいらっしゃったし。」



何も言えず、苦々しい顔をする殿下たち。




「あらあら困りましたね。私の罪とやらで押し通せるとお思いでしたか?浮気ということでよろしいですわね。」



浮気だな。美しいラストだと思っていたが…。そうだよな、浮気だよな。



「質問はまだありますわ。『聖女たちからの不満の訴えがこのミラを通して王宮に上がってきている。』でしたかしら。この国では、いつから一介の男爵令嬢にそんな権限が与えられたのでしょう。」



確かに正論だ。


「それは生徒会で一緒で、話す機会もあったから…」


男爵令嬢が動揺しながら答える。それは苦しい言い訳だな。



「神殿長でもなく、たかだかお手伝いの方が?私の本当の仕事内容も知らずに?」



ほら、論破される。



「やめろ!ミラは神殿の状況を憂いて教えてくれたのだ!!」



公爵令嬢は、反論もせず、首をかしげながら続ける。



「あとは、えーと、暴漢に襲わせ、命を狙ったでしたか?」


「そ、そうだ!もうすでに犯人も捕まえている。黒幕としてお前の名前を言っているのだ。これは、言い逃れできないぞ。」


急に、強気になる王太子


「その罪人は、死刑ですか?」

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