第3話

「大聖女様は、民とのかかわりを持とうともせず、神殿内で祈りをささげているだけです。そもそも神殿にも頻繁に訪れませんし、私たちは、聖魔法を使っているところを見たことがありません。こんなことを言ってはなんですが、神殿での業務は、私たちの力で何とかなっている状態です…民も顔を見たことがない大聖女様より自分たちに寄り添うミラベル様に親しみを感じております。私たち聖女一同はミラベル様との婚約に心からお祝いを申し上げます!!」


満面の笑みを浮かべて、ミラベル嬢に向かってウィンクをする聖女代表。涙を潤ませ、感激に震えるミラベル嬢。美しい友情…でいいんだよな。



「ミラは、自分に聖女の力はないが、できることをしたいと神殿へ頻繁に訪れていた。貴様の罪は、役目を果たさない怠惰だけでなく、優しきミラが慕われていることに嫉妬し貶めようとしたことだ!!」



壁際にいた聖女たちが一斉に頷く。あれ?卒業パーティだよな。なぜ聖女たちが?ああ、断罪の証人としてか。



「承知いたしました。聖女の力と怠惰ですね。はい、では答え合わせをいたしましょう。殿下、それに関しては、6ページでございます。」



………。無言で冊子をめくる王太子殿下。




ウィレムス公爵令嬢は、今置かれている自分の状況がわかっておられるのだろうか。


いつの間にか後ろに控えている令嬢の護衛は、美しい顔立ちなのに立っているだけで威圧感が半端ない。



「これは…。」

共に、覗き込んでいた宰相のご令息レオンス様がつぶやく。

ウィレムス公爵令嬢の義兄や辺境伯令息のダニエル様もそばにかけ寄り、同じく覗き込む。

固まる殿下たち。



「…これは、事実か?いや、虚偽だ!そうに決まっている。」



「では、補足いたしますわね。まず、私の大聖女の力は本物です。アラン!」



「は!」アランと呼ばれた護衛は、どこからかナイフを取り出し、何のためらいもなく腕を深く切りつける。



悲鳴が飛び交う。声にならない声を上げ倒れる令嬢も続出する。衛兵は慌てふためき場は混乱を極めた。




「静まりなさい!」

ウィレムス公爵令嬢の凛とした声、美しい手をかざしたかと思うとまばゆい光が放たれ、みるみる傷が治っていく。



「この通りです。欠損も年数によっては再構築可能ですわ。」

当然のように微笑む令嬢。何事もなかったように、後ろに控える護衛。床にたまった血の上に立ち、平然としている様子に恐怖すら感じる。



「…では、書かれている聖女たちの能力強化とは?」


「はい、いくら私に膨大な聖力がありましても、毎日訪れる人数を一人で診るには、やはり時間がかかってしまう、そんな時期ありました。一刻を争う患者もおりますし。そうすると強力な力をもつ大聖女1人より治療に足りる力を持った大勢の聖女がいたほうが都合がよいのです。そこで、私は神に祈りを捧げ、毎日私の悪口を話している聖女たちへの嫌がらせとして聖女たちの能力を強化いたしましたの。砂粒のような力しかない彼女たちの力を宝石のようにするのです。私も大変だったのですよ?」



「う、うそよ!」


青ざめた聖女の一人が叫ぶ。



「砂粒ですのよ。治療できる力も浄化の力も十分ないのですから、本来そのような仕事はしなくてもよかったのです。余計な仕事をさせてしまってごめんなさいね。あ!でも安心して。もう嫌がらせはやめたの。これからは、仕事が少なく、いいえ、できなくなるわね。」


膝をつき、震えだす聖女たち。『嘘よ嘘よ』とつぶやき、手から聖なる光を出そうと必死になっている姿が哀れだ。

誰も何も言えずにただその光景を無言で見つめるのみ。



「ちなみに、浄化もできます。」

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