第2話

シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢が胸の隙間から小さな冊子を取り出す。



「お、お前は、今どこから何を取り出した!」


「見ていらっしゃらなかったの?胸から冊子を取り出したのですわ。ドレスのどこに物をしまうところがあるというのです。」


「なんて、はしたない。」


「殿方の前でやらないだけで、皆、ハンカチなどはここに入れているはずですわ。殿下の横にいる可憐ぶった令嬢も…あっ!失礼。ものを挟むには少し足りないようですね。ええ、そちらの方は、そのようなはしたない真似はしておりませんわ。よかったですわね殿下。」


「なっ!ひどい!」



そうか、令嬢はあんなところに物をしまうのだな。男爵令嬢…確かに、ストンだな。



「さあ、始めましょう。こちらは殿下にお預けいたしますわ。お話ししていただいた後、ご覧ください。書ききれなかったものもありますが、補足は後でしますので、ご安心を。」



さあさあ、と、うきうきしているようにも見える令嬢

この方たちの温度差に冷や冷やする。誰かこの状況をきちんと理解できているものがいるのだろうか。異様な雰囲気をただただ見守ることしかできない。



「ああ、いいだろう…まず、貴様は大聖女としての力を有しながら、神殿の中でただ祈りをささげるだけ。ほかの聖女はその間、民の治療をし、貧しい民や孤児などに対しての炊き出しも行う。魔物が出た場所に赴いては、危険な場所で浄化も行う。聖女たちからの不満の訴えがこのミラを通して王宮に上がってきている。聖女代表ここへ。」



「はい!」




********************




「ねえ、大聖女様は今日もいらっしゃらないの?」



民が、けがや病気のため神殿に隣接している治療院に列をなしている。


「いい御身分よね。公爵令嬢様は。せっかく来たなと思っても、神殿の中で祈るだけ。顔も出しやしない。大変な仕事は全部私たちに押し付けて。全く、大聖女としての力があるのかも怪しいわ。お金の力で地位を手に入れたんじゃない?」


聖女たちが口々に不満を口にする。


「皆様、そんなことを言っていけませんわ。神への祈りはとても素晴らしい仕事です。わたくし、力はありませんし、物を運んだり民を案内したりそんなことしかできませんが、皆様の仕事が減るようお手伝いします。さ、今日も頑張りましょう。」


ミラベルが腕まくりをしながら聖女たちを励ます。



「ああ、癒されるわ。なぜ、神はこの方に聖女の力をお与えにならなかったのかしら。」



「本当よね。あんな人より、よっぽどふさわしいのにね。」



笑顔で働くミラベルと見つめながら、聖女たちはため息をつく。



「『皆の頑張りに感謝している』とか何とか言われてもちっとも嬉しくないわよね。じゃあ、一緒に働けって言ってやりたいわ。」



「ねえ、私実は、あと2日後に前に魔物が大量発生した場所に行くの。怖いわ。」


「魔物はすべて退治されたのでしょ?」


「そうなんだけど…。そんなところを浄化だなんて。」


「何それ、それこそ、大聖女様の出番じゃない。」


「さっき神官様がおっしゃっていたけど、大聖女様は今王都を離れているんですって!」


「逃げたのよ、きっと。信じられない!あの人が未来の国母なんてこの国もどうなるのか。ああ、やだやだ。」



聖女たちのたまりにたまった不満は止まらない。

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