第6話 王都防衛戦②

◆ ◆ ◆


遠くの方で ドカーン と大きな爆発音がしたのを聞きながら、赤髪の青年は少しの緊張感を覚える。

おそらくイブキが攻撃を仕掛けたのだろう。相変わらず派手だ。しかしこの派手な攻撃が戦闘開始の合図でもある為、このような音を聞くと自然と緊張感を覚えるようになってしまった。などと考えていると、突然目の前の地面に魔法陣が現れ、軍服の集団が現れた。おそらく何処かの国の騎士団だろう。このタイミングでこの人数、友好的な相手ではないのは確かだ。


「僕は大人数を相手にするのはあんまり得意じゃないんだけどなぁ。だってみんなみたいに派手じゃないし、普通のヒトだし。でも」


と一息おいてから続ける


「任されたんだからやるべき事はやらないとね。」


そう言いながら腰に佩いている剣を抜き胸の前に構え、目を閉じながら祈りを込める。


(今日も力を貸してね)


敵の足音が近づいてくるのを感じ、ゆっくりと目を開く。


「さあ、行くよ!」



◆ ◆ ◆


「始まったみたい」

「そのようですね」


数キロは離れているのだが、まるで自分のすぐ近くで起こったかのような派手な爆発音を聞きながら深緑色のくせっ毛の小柄な少女、リリアはぽつりと呟く。その呟きに返答をしたのはリリアが胸の前で抱きかかえている、ウサギのぬいぐるみである。


「イブキはすごいよね。イブキだけじゃなくて、みんなすごい。」


「リリアも十分凄いですよ。しかもそんな凄いひとたちの手助けができるのですから。」


「そうかな… うん、そうだね。がんばらないと。」


そう自分に言い聞かせるように言いながら、ぬいぐるみを抱える腕にぎゅっと力を込める。そして自分に向かって来る魔術師の集団を目掛けて魔法を発動する。


「いくよ、"魂喰らいソウルイーター"」



◆ ◆ ◆


「みんな派手にやっとるなぁ。ん?」


王都の中心に位置する王宮の屋根から全体を眺めていたカゲツの口から、感嘆と呆れが混ざったような声が漏れる。その直後、視界の端で何かが動いたのを彼は見逃さなかった。どうやら、それぞれの戦闘の隙を突いて少人数で王宮へ向かうという作戦で動いている者たちが居たようだ。


「これはとうとう俺の出番か?今日は特に出番なしで楽できると思とったんやけどなぁ。しゃーない、ちょっくらお仕事してくるか。」


と言葉とは裏腹に楽しそうに言うと うーん と伸びをして転移魔法を使い地上に降りていった。




「そっちの様子はどうだ?ルーファス?」


地上に降りたタイミングで式典の真っ最中であろう彼から念話で連絡が入る。


「問題ないで、今んとここっちで全部対処できとる。王都内には侵入者はおらへんよ。」


と目の前の侵入者を見ながら答える。


「そうか、引き続き頼むよ。」

「了解」


そういう訳やから と薄暗い路地で侵入者の行く手を阻むように立ちこう言ってみる。


「諦めて帰ってくれへんかなぁ。もし帰ってくれへんって言うんなら…」


と彼が言い終わらないうちに敵はナイフのような小型の刃物を装備し、間合いを詰めてくる。


「おっと、この間合いの詰め方とその武器、あんたらどっかの国の暗殺者か」


ナイフの刃が目の前に迫って来たところをギリギリで後ろに飛んで躱し距離をとる。


「俺を殺したところで何も変わらんと思うけど、そっちがその気なら相手してやらんと失礼やな。まあ、ぶっちゃけ何もせんで返してやる気なんて最初からあらへんけど。恨むなら俺と会ってしもた自分自身を恨むんやな。」




「はあ、久々に暴れて疲れたわ。」


そう言いながら伸びをする彼の周囲には先程襲撃してきた暗殺者であろう者が無惨な姿で倒れていた。

ある者は全身に獣にでも引っかかれたような大きな傷があり、ある者は手足を失っていた。手足の関節があらぬ方向に曲がっている者も居る。そして彼の足元にはそんな彼らの血液で幾つもの大きな血溜まりができていた。


(しっかし、やっぱバケモンやねぇ。この姿を誇りに思う奴も居るみたいやけど…)


と壁に映った自分の影を見て思う。それもそのはず、全身を体毛で覆われ、両の手足には鋭い爪が並び、突き出た口にも鋭い牙が並んでいる。その姿は獣人族、その中でも特に戦闘能力に特化した狼のものに見えた。やっぱり自分はこの姿を好きにはならないし、できるだけ他人にも見られたくない。たとえアイツらでも。王様でさえも。だから自分の姿を見た者は誰だって殺してきた。今までも、多分これからも。


「さ、帰ろかね」


と彼は転移魔法を発動し戻って行った。路地の壁には長髪をひとつに纏めた青年の影が一瞬映ったかと思うと、次の瞬間には跡形もなく消えていた。

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