第3話 大聖女 ホーラ・エルネス

俺が教室の中心に立ったとたん、すぐ横で魔法陣が浮かび上がった。


「まさか、俺が流れを捻じ曲げたから強制的に直そうって事か⁉」


危険を感じて離れようとしたが、少し遅かった。

教室中が光に包まれて、気が付いた時には知らない場所にいた。



「……ここはどこだ」


「ここは、一時的に作り出した異空間です。夜崎様」


声が聞こえたほうを向くと、あの時の大聖女が立っていた。


「あの時の、大聖女…」


「覚えていてくださったんですね。名前を申し上げず、すみません。わたくし、ホーラ・エルネスと申します。ホーラとお呼びください」


これで会うのも、5回目だ。


「なんでここに俺を連れてきた」


わざわざこんな異空間を作り出すなら、なにか理由があるんだろう。


「夜崎様も魔王討伐までの時間がループしていることはお気づきでしょう。今まではわたくしが女神の力で時の流れを保ってきたのですが、無理やり行われた勇者召喚により時間軸の崩壊が起きたのです」


「時間軸の崩壊…?」


「はい。異世界と夜崎様がいる世界では時間軸が異なるのです。異世界は夜崎様がいる世界よりも一万年先の時代なのです。つまり、勇者召喚は異世界の時間軸で考えると、過去の人々を未来に召喚したことになるのです」


あの世界がこの世界より一万年先の時間を進んでいて、過去から人々を無理やり召喚したという事か。


「一つ質問なんだが、ホーラさんがいる世界よりも未来の人々を召喚してもよかったんじゃないか?」


「それは不可能です。過去のことは記憶の書というものが保管されており、そこから得られますが、未来のことは誰も予測できませんから」


なるほど。未来のことは流石にわからないか。


「過去の人々を未来に召喚し、過去に戻す。これにより時間軸が捻じ曲がり、ループするようになったのです。このままでは様々な時間軸に影響を与え、最悪の場合全ての世界が崩壊します」


「世界の崩壊!?」


「わたくしもこの状況をどうにかしようと試みたのですが、一人の召喚者の記憶維持しかできませんでした」


それが俺って事か。でも、俺じゃなくて勇者の桐ケ谷とか聖女の如月さんとかのほうがよかったんじゃないか?

勇者とか聖女のでどうにかなる問題ではないが、俺みたいな魔術師の中でも弱小ステータスのやつよりは絶対良いはずなのに。


「俺が選ばれた理由は?俺よりいいスキル持ちはたくさんいたはずだ」


「夜崎様の記憶維持を行ったのは、夜崎様の固有スキルに女神アテナの加護があるからです」


俺に固有スキル?そんなのステータスに表示されていなかったが…。


「女神アテナの加護は隠しスキルです。おそらく、他にも隠された女神アテナからスキルが与えられているでしょう。女神アテナは戦術の女神で、英雄たちの守護者と言われてきました。その加護を与えられたものはスキル強化はSSSになると言われています。与えられた本人もそのことを知らない限り表示されず、使用もできない特別なスキルなのです」


スキル隠蔽が使用されていたという事か。だからあんな弱小スキルしか表示されていなかったのか。


「時間軸が壊されている影響で、古来に絶滅したはずの魔物が出現しています。4回目まではギリギリ耐えていたものの、5回目で魔物の時間軸が崩壊したのでしょう。なので、夜崎様には世界の時間軸の修復を手伝っていただきたいのです」


「俺もこのループにはこりごりだから手伝うのは構わないんだが、時間軸の修復って言ってもどうやるんだ?」


俺が質問するとホーラさんが呪文を唱えて、一冊の本を取り出した。

ページをパラパラとめくるとその中の1ページを見せてくれた。


「時間軸と言うものは実在しないものです。ですが、その時間軸を守る鍵は存在します。夜崎様にはその鍵の回収をお願いしたいのです」


見せてくれたページには5つの鍵が描かれていた。

随分複雑な構造の鍵だな。再現は不可能そうだ。


「わかった。俺にできるかはわからないが、頑張ってみようと思う」


「ありがとうございます。転移前に重要なことを教えておきます。夜崎様と一緒に召喚された方々とは会わないようにしてください。もしかしたら、もう一人の夜崎様が存在している可能性があるのです。もう一人の夜崎様と会ってしまえば、ループと違う流れを動いている今のあなたが消滅する危険性があります」


ループはあくまでも1回目の魔王討伐が繰り返されているからか。俺は記憶があるから、ループしていることに気付けるが他の人からすれば初めての召喚と言うわけだ。

1回目を繰り返しているなら、もちろんその時の俺も存在している。


「こちらに転移させたら、固有スキルが解放されているはずです。まずは、冒険者ギルドに行ってみてください」


「わかった。ありがとう、ホーラさん」


「どうか、お気をつけて」


ホーラさんが俺の肩に手を置いて呪文をつぶやくと、異空間に転移したときと同じような感覚が俺を襲った。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る