桃太郎④

 「ねねー!」

 二人は絶叫に近い声で呼びます。

 その時です、どこからともなく、黒っぽい物体が大鬼の眼球めがけ飛んできました。

 大鬼の目に黒っぽい物体が当たると、大鬼はねねちを離し、目を抑えながらうづくまります。

 大鬼が離したことで、ねねちは割と高い位置から地面に落下してしまいました。

 「あいで!」

 頭に大きなタンコブをつくり、タンコブを摩りながら上半身を起こします。

 「いたー、なにー?」

 見ると、ラミィちゃんが必死に何かを叫んでいます。

 「ねねー! 逃げてー!」

 「逃げるぅ?」

 辺りを見ると、近くで大鬼が目を抑えながら蹲っていました。

 「うわ! デケー! 何だありゃ!?」

 危機感が割と備わっていないねねちは、驚きはしたものの、案の定、興味が湧いてしまいました。

 近くに行って見てみたい、触ってみたい、そんな気持ちが溢れ、スクッと立ち上がると鬼の方へ向き、歩き出そうとしました。

 その時、目を抑えていた大鬼が、低い唸り声をあげながら立ち上がります。

 その大きさたるや、東京ドーム何個分とか良く分からない例えをされるくらい、今までに見た事も無い大きさでした。

 大鬼の大きさに驚いていると、ラミィちゃんの声がした方から銃声が聞こえます。

 見ると、大勢の鬼がラミィちゃんたちに襲い掛かっていました。

 「助けなきゃ!」

 ねねちは、自分が一番危険な状態なのにも気づかずに、いや、関わらず、仲間を助けに行こうとします。

 しかし、大鬼がそれを許してくれません。

 仲間の所へ行こうとするねねちを、何度も何度も捕まえようと手を伸ばします。

 「もー! 邪魔しないで!」

 プンスコ怒ったねねちは、両手を天高く上げ、大声で叫びました。

 「森のみんな! お願い! お願いだから力を貸して! みんなの助けが必要なの! 空に手を上げているねねの所へ! お願い!」

 ねねちの声に、一瞬、大鬼は動きを止めましたが、地鳴りのような唸り声をあげ、ねねちに襲い掛かります。

 それを見た、ぼたんやラミィちゃんは顔を青ざめさせながら叫びます。

 「ねねー! 逃げろー!」

 ぼたんはそう叫びながら、大鬼に向かって銃を撃ちますが、HK416の威力では大鬼を倒すことができません。

 唯一、大鬼を一撃で倒せるかもしれないバレットM82を撃つのにも、襲い掛かってくる鬼たちをヘッショしながらでは無理があります。

 「ねねー! 逃げてー!」

 ラミィちゃんも、酒豪鬼に変身して、助けに行こうにも距離があり間に合いません。

 大鬼が、空に両手を上げているねねちに手を伸ばします。

 「いやー!」

 ラミィちゃんの悲鳴に近い叫び声。

 ところが、捕まえようとした大鬼は、伸ばしていた手を止めています。

 大鬼は何かを見ています。

 大鬼の視線の先には、いつの間にか、ねねちの頭の上に乗っているモノでした。

 それは、大鬼の目に飛んできたカブトムシでした。

 ねねちの頭に乗っていたカブトムシは、羽を広げると、天高く飛び上がりました。

 空へと飛んだカブトムシは、ねねちの頭上でグルグルと旋回を続けています。

 すると、遠くの方から何やら音が聞こえてきました。

 音のする方角の空に、黒龍のようにうねり、こちらへ向かって来るものがあります。

 それは徐々に、大鬼の地鳴りのような唸り声を超える音となり、まるで大型爆撃機と聞き間違えそうな轟音となりました。

 見る間に黒龍がねねちの所へたどり着くと、大鬼を飲み込むように向かって行きます。

 その黒龍は、カブトムシやクワガタムシの大群でした。

 カブトムシの硬い甲羅は、巨体な大鬼を浮かせるほどの衝撃を与え、クワガタムシの顎のハサミは、鋭利な刃のように大鬼の厚い皮膚を切り刻みます。

 その光景に、ラミィちゃんはハイライトオフな目で呆然と眺め、ぼたんは「すげー!」と、目を輝かせながら見ていました。

 大鬼はたまらず逃げ出し、ねねちに背を向けて走り出しました。

 ねねちは、天高く上げていた両の手のひらを地面に叩きつけ叫びました。

 「大地のみんな! ねねに力を貸して!」

 すると、ねねちの周りに、何かの植物の葉がニョキニョキと生えました。

 ねねちは、その一つをむんずと掴むと、勢いよく引っこ抜きました。

 それは、ねっ子という植物で、マンドラゴラの亜種とも言われているものでした。

 ねねちは、ねっ子を高々と掲げ再び叫びました。

 「合体!」

 他のねっ子が、その声に応えるかのように、ねねちが掲げているねっ子に一筋の光となり集まりました。

 ねねちが掲げているねっ子が眩い光を放つと、一本のランスに変形しました。

 ねねちは、ねっ子ランスを持つと、五期生の呼吸の構えをとりました。

 そして、逃げていく大鬼の菊の門めがけ、霹靂一閃を放ちます。

 その威力は凄まじく、大鬼の菊の門に深々と突き刺さりました。

 大鬼は、やらないか並みの叫びを上げ、昇天しました。

 「よし!」

 フンスと鼻を鳴らし、ラミィちゃん達を助けに行こうと振り返ると、既にぼたんが鬼を全滅させていました。

 「やっぱり、ししろんは凄いなぁ、ねねには無理だ」

 一番の強敵をいとも容易く倒してしまう実力を持っている事に、今はまだ、ねねち本人が気づくことはありません。

 しかし、いつの日か、みんなを助ける勇者に変われると、大鬼の菊の門に深々と突き刺さっている勇者のランスが輝き答えています。

 

 ぼたん一行は、鬼が人々から奪ってきた宝物を持ち帰り、被害にあった人や困っている人に分け与えたり、鬼討伐の莫大な報奨金や謝礼金を、お爺さんとお婆さんにあげたりし、ねぽらぼの四人はいつまでも仲良く暮らしましたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

童話の登場人物をホロメンに変えてみた件 無課金勢 @hikono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ