桃太郎③

 「うっさいなぁ~、も~」

 そう言いながら、不機嫌そうに起きる肝臓。

 目をこすりながら起き上がると、ひっくり返って目を回しているポゥポゥがいました。

 「おまるん、なにしてんの? そこで寝ると風邪引くよ~」

 自分の事を棚に上げ、ポゥポゥに注意します。

 すると、ぬぅっと大きな鬼がもう一体現れました。

 首が痛くなるほど見上げてしまう鬼に、肝臓はニャースのような悲鳴を上げます。

 悲鳴を上げるニャースに、鬼が襲い掛かります。

 しかし、数々の大喜利をこなしてきた女王。

 その実力は折り紙付きです。

 バッㇳのように一升瓶を逆さに持ち、ホームラン王の如く、一升瓶で鬼のスネをカッ飛ばしました。

 ゴン! ではなく、もっとも痛い音である、ゴッ! という打撃音が響き渡ります。

 鬼はたまらず崩れ落ちました。

 しかし、脛をおさえ、痛みで転げまわっていた鬼が立ち上がろうとします。

 鬼は、ふたたび襲い掛かろうとしたときです。

 「一瞬千撃いっしゅんせんげき

 一升瓶バットを高々と上げ、暗黒微笑を浮かべたラミィちゃんがいました。

 「抜山蓋世ばつきざんかいせい

 すると突然、分身したかのように幾多のラミィちゃんが現れました。

 「 鬼哭啾啾きこくしゅうしゅう

 分身した幾多のラミィちゃんは、目にも止まらぬ速さで、一升瓶連打を鬼の頭に喰らわせます。

 「 故雪花成ゆえゆきはななり!」

 酒豪鬼は、見るも無残になった鬼に背を向け、キュピーン! と音と共に『酒』という文字が背中に浮かび上がりました。

 酒豪鬼は一升瓶をドンと地面におくと鬼に言います。

 「我、酒を極めし者、たかが鬼ごときが、我に勝つるとでも思うたか、この痴れ者め! もう一度、我の言葉を聞き冥土へ逝けぃ!」

 そういうと、一升瓶に入っている酒をあおったあと、口元を腕でグイっと拭い、美しい淡青色の髪をなびかせながら言います。

 「我は一瞬で千撃を出し、山を引き抜くほどの力と、世を覆いつくすほどの意思を持ち、我の前では死した魂すら泣き叫ぶ、故に雪花ラミィ成り」

 大事な事は二度言う心優しい酒豪鬼。

 「ラミィちゃん、すごーい!」

 その声に酒豪鬼が振り返ると、ぼたんが走り寄ってきます。

 ぼたんの姿を見た酒豪鬼は、女性代表と言っても過言ではないくらい、天使と悪魔の二面性をいかんなく発揮し、酒豪鬼から瞬時に恋するトキメキ女子に変貌しました。

 「あーん! ししろーん! どこ行ってたのー?」

 「鬼をヘッショしてたんだけど、ちょっと撃ち漏らしちゃったみたい。ラミィちゃん大丈夫だった?」

 「心配してくれるのー? やーん、嬉しー! ししろん好きぃ!」

 デレにデレまくっているラミィちゃんに抱きしめられる、無邪気な笑顔のぼたん。

 「ラミィちゃん、さっきは凄かったね」

 「えー? なにが~?」

 「ラミィちゃんがいっぱい居て、こう鬼を」

 「ししろん」

 「なに?」

 「知らなくていい事ってあるんだよ」

 デレにデレまくっていたラミィちゃんは、ダークサイドのオーラが漏れ出る圧でぼたんに言います。

 「う、うん」

 ぼたんがちょっと引き気味に返事をすると、ダークサイドは抱きしめていたぼたんをはなし、ポケットの中から何かを取り出しました。

 「ししろん」

 「なに?」

 「これ見て」

 そう言うと、ぼたんにペンのような物を見せます。

 「なにそれ? ペン? あれ? あははは、ラミィちゃん、サングラスし」

 そう言いかけた時、ビカッと眩い閃光がぼたんを包みました。

 ピヨるぼたん。

 そんなぼたんにラミィちゃんが言います。

 「リピートアフターミー、ラミィが鬼に襲われそうになって、ししろんが助けた」

 「……ラミィちゃんが、鬼に、襲われそうに、なって、わたしが、たすけた」

 ぼたんの言葉を聞き、ラミィちゃんはニコリと微笑みました。

 数秒後、ぼたんが我に返った途端、ラミィちゃんが抱き着きます。

 「やーん! ししろん、強ーい! 素敵ー!」

 「え?」

 ポカンとするぼたんにラミィちゃんが言います。

 「ラミィが~、鬼に襲われそうになって~、ししろんが倒してくれたんだよ~。ししろん、チョー強かったー! ししろん、ありがとう、もー、ししろん大好き!」

 「……うん、そうだ、私が倒した。あ! ラミィちゃん、怪我はない?」

 「ないよー! ししろんのお陰だよー! んーチュッチュ!」

 「あはははは! くすぐったいよ。ところで、おまるんとねねちゃんは?」

 「おまるんはそこで寝てるよ~、ねねは~……、ねねは? ねねは!?」

 二人は慌てて辺りを見渡すと、他の鬼の倍くらいありそうな大鬼が、ねねちを片手に持ち、口の中に放り込もうとしていました。

 



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