あおいとり

JEDI_tkms1984

あおいとり

「ああ、オレはなんて不幸なんだ」

 これが彼の口癖であった。

 今朝は家を出るのがいつもより五分遅くなってしまい、そのために乗るハズだった電車を逃してしまった。

 雨上がりの道を急いでいたせいで水たまりを踏んでしまい、ズボンの裾に泥がはねてしまった。

 自販機でジュースを買おうと財布から小銭を取り出す際、落とした十円玉が自販機の下に入って取れなくなってしまった。

 不幸といってもこの程度である。

 人によっては笑い飛ばせるもの、ちょっと運が悪かったというレベルの出来事であるが、彼にとっては深刻な問題であった。

 なにしろ幸せというものを実感できない性質なのだ。

 振り返れば彼にも良い出来事はいくつもあった。

 一日限定二〇個のパンを手に入れたこともあったし、雑誌の懸賞に当選したこともあった。

 卵に黄身がふたつ入っていたことも、茶柱が立ったこともある。

 大小さまざまの幸運にもしっかり恵まれているというのに、なぜかそれらはカウントしない。

 結果、彼は自分を不運で不遇で不幸だなどと決めつけてしまうのだ。



 しかしそんなセルフアンラッキーな彼も、人並みに幸せを求めている。

「そういえば昔話で幸せの青いトリなんて話があったな。見つけたら幸せになれるのだろうか? 一度くらいお目にかかりたいものだな」

 ふと空を見上げた彼はつぶやいた。

 スズメやドバトはあちこちで見かけるが、青いトリは見たことがない。

 つまりそれだけ珍しい存在であるのだから、もし見つけることができれば幸せになれるかもしれない。

「よし」

 彼は町中を探すことにした。

 電車に乗り遅れたことも、ズボンの泥はねも、失った十円も覆してなおお釣りがくるくらいの幸運をつかんでみせる、と。

 幸運の象徴がそう簡単に見つかるハズがない。

 また、空を飛んでいるとはかぎらない。

 大通りから路地裏、民家の陰、公園……としらみつぶしに探し回る。

 だが二時間歩き、三時間歩きすれども、目に映るのはスズメやカラスばかりだった。

 いい加減、歩き疲れた彼は立ち寄った公園のベンチに腰をおろし、そしてこうつぶやいた。


「トリ、会えずか……」






   とり

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