第31話
「……静かになったね」
「うん」
「なんか逆に心配になるけど」
とりあえず、リル達は放っておくしかないのかな。
首突っ込んだら巻き込まれそうだし。
それよりもだ。
そもそもここは何処なのだろうか。
どこまでも広がる水平線に振り返れば生い茂る木々。
これって
……虎とか出てこないよね。
フリじゃないからな。
この世界はなんでも飛び出してきそうだから、本当に困るよ。
今頼りになるのはアディスだけだし。
何もなければいいけど……。
「なあ、実は俺この前のレセプション行ってないんだ」
「なんでよ。来れば良かったのに」
「どうしても会いたくない奴がいてさ」
ははーん、なんか分かっちゃったかも。
可愛いもんだね。
「こいつぅ! さては初恋の同級生だな?」
「違うよ。親父だよ、親父」
「あ、そうなんだ。……お父さんが初恋相手なんだ」
まあ、それは……ねえ?
人それぞれだし。
「んなわけあるか。親父に会いたくなかったんだよ」
「それは良かった。変に気を使うところだったよ。だけど、おっさん達いっぱいいたから鉢合わなかったかもね」
「……この
霞んだ赤髪といえばギルマス、だよね。
汚らしくて澱んだ赤髭の元・山賊みたいなおっさんならギルマスなんだけどなあ。
うーん、霞んだ赤髪かぁ。
「ごめん。ちょっと分からない」
「嘘だろ、お前まじか。商業ギルドのギルマスだよ」
「はっ! もしかして」
「そうだよ」
あの美しい奥様と、穢らわしいギルマスの息子っ!?
確かによく見ればなんとなく面影が……。
「ち、近いよ」
声も似てるかも。
うん、似てる。
目もふたつあるし、口もあるし。
「はえー。全然気づかなかったよ」
言われてみれば、なんで今まで気づかなかったんだろうってくらい似てるかもな。
これがあと数年で髭面になるのか。
時の流れは残酷だよ。
「だから近いって」
「いやあ。似てるなぁって」
「ぶん殴られちまって喧嘩別れしたきりなんだよ」
「あら。親子とは言えそこは男同士だね」
ギルマスの喧嘩相手ってアディスだったんだ。
「更に居合わせた先輩と親父が更に喧嘩しちゃって」
「あらら」
「お袋もカンカンだよ。やり過ぎだってね。親父が釈放されたのは町中を飛び回ってたから知ってたんだけど、なんか気まずくて」
……懐かしいな。
親子喧嘩か。
たまにしたな、お母さんと。
わたしの場合、麻縄でぐるぐる巻きにされた後、庭の木に吊るされ、近くで焚き火をされるという喧嘩よりも拷問に近いものだったけど。
「アディスって冒険者登録してるんだよね? 商業ギルドは?」
親が商業ギルドの責任者なら、商売に興味を持っても良さそうなのに。
逆に近くで見過ぎて嫌になったのかな。
「それが喧嘩の原因。俺は昔から冒険者になりたくてさ。それで親父と喧嘩するようになって」
「ふーん。期待されてたのかもね」
「どうだかな。まあいいよ。大分話が逸れたけど、結局レセプションに行ってないんだよ」
「うん」
「腹も空いてきたし咲の料理が食べてたいなって。皆が大絶賛するもんだから、行かなかったの後悔してたんだよ」
まあ、作る分には構わないけど。
ここの干物使ってみたいし。
勝手に使っていいかな?
後で代金払えばいいよね。
「よし、じゃあ海鮮系で攻めますか!」
「もしかしてここに並んでる干からびたやつ? 肉がいいんだけど」
久々に食べたいんだよね。イカ」
イカは美味しいよ。
焼いてよし煮てよし。
炙ってよし握ってよし。
だけどわたしは今、イカのワタ焼きがどうしても食べたいんだ。
肉も悪くないけど肉無いしな。
無理やりイカ食わそう。
もはや肉みたいなもんだろ。
「じゃあさ。料理作るから一つ約束して」
「約束?」
「ギルマスと仲直りしなよ」
アディスはは少し頷くと「約束する」と言ってくれた。
もしかしたらキッカケが欲しかっただけかもな。
仲直りなんて意外に簡単だったりするもんだ。
ましてや親子なんだから。
本気で恨んだり憎んだりするはずがない。
もしもギルマスがごねたら、屋台のレシピ全部没収の上、穢らわしいお髭をまだらに剃り落とそう。
リルなら喜んでやってくれるはずだ。
「じゃあアディスは良さげな石を集めてきてね。火を起こさなきゃいけないからね」
「任された! ついでに薪も持ってくるわ」
「うん助かる。よろしくね」
さて、わたしも道具と材料を用意しないと。
包丁と玉ねぎ……あとはアルミホイルがあればなぁ。
だけど無い物は仕方がない。
鍋で代用するしかないな。
てことで、リルのカバンから色々と拝借しなきゃいけないんだけど。
「……なんか怖いな」
静けさが余計に怖い。
あの木陰を除いた瞬間、殺人現場に遭遇してしまいそうだ。
しゃあない。
リルを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます