第39話 コロナ

 総理、失礼いたします。


「ああ、君か。よく来てくれた。待ち合わせ丁度だな。時間きっかりに来るとは。相変わらず、きっちりした性格だな」


 総理、それは褒めてくださっているのでしょうか。ありがたきお言葉として受け取らせていただきます。


「一応、褒めたつもりだが。そうは聞こえなかったか。まあ、そうひねくれた顔をするな。せっかくの男前が台無しだぞ」


 いえ、総理の前でひねくれているつもりはございません。これでも素が出ないよう気を配っているつもりです。


「しかし、今の表情は素が出ていたぞ。私が言うのだ。間違いない」


 本当ですか、総理。気をつけてはいるものの。私としたことが。不覚です。まさか総理に見破られるとは。私の鍛錬不足です。精進いたします。


「ふ、君はそういうところが正直でよろしい」


 総理。もしかして、からかっているおつもりでは。おやめください。


「まあ、こんな場所ではなんだ。もっと奥へ入りたまえ」


 なぜか、はぐらかされた気がするのですが。


「まあ、そのことは気にするな。軽い冗談だ。それより人目につく前に入りたまえ」


 これは失礼いたしました、総理。奥へ失礼させていただきます。


「では、手短にお願いする。口頭で構わない。私の質問に答えてもらいたいのだが。構わないか」


 かしこましました、総理。私の答えられる範囲内でお答えさせていただきます。


「答えられる範囲内か。君の知り得ている限りの情報が欲しい。私には情報が足りないのだ」


 かしこまりました、総理。しかし、私もすべてを知り尽くしているわけではございません。お答えできる範囲内でしかお答えできません。そこをご承知された上で、ご質問にお答えさせていただきます。


「できるだけ答えて欲しいのだ」


 かしこまりました、総理。知りうる限りのことは答えさせていただきます。しかし、私にもまだ調査不足の面がございます。そこをご理解いただけると幸いです。


「コロナはなぜ発生したのだ」


 それは総理もご存じの通りかと。中国の武漢が始まりでございます。


「それは分かっているのだが。何か裏があるのではないのか。私はまだ詳しいことは知らないのだ。分かってすらいない。それに連日テレビから報道されるコロナの感染状況。まるで国民の不安をあおっているようにしか思えない。

 一体いつから、こんな社会になってしまったのだ。マスクに手洗い消毒。こんなことが日常化しているのだ。明らかにおかしい。コロナがそんなに恐ろしい病気ならばSARSの時のように徹底消毒するしかないだろう。

 なぜ、それを行わずして菌を恐れる。本当に怖い菌ならば、恐るべき細菌だとしたら、もっと死亡率が高くてもおかしくはない。言っては悪いが死亡率は微々たるものだ。実は風邪のウイルスに感染したときと同じくらいのものではないのか。

 風邪をこじらせてお亡くなりになる方も少数ながらいらっしゃる。私はそう思うのだが。

 コロナ死。これこそ、まさにおかしい。おかしな話ではないのか。インフルエンザ死などという表現は今までになかったと思うのだが。私は疑問に思えてならん。疑問だらけだ。

 例え医学の知識がなくとも日常がまるで非日常になっている。なぜ誰もそのことに気がつかないのか」


 落ち着いてください、総理。あまり興奮なさると脳内に悪いですよ。


「私を年寄り扱いするでない。これでも気持ちは若いのだ」


 さようでございますか、総理。私としたことが。無礼な発言をお許しください。


「私は事の発端と真相を知りたいだけだ。君はすでに知っているのだろう。君の知っていることを私も知りたい」


 そこまで分析できているのでしたら、もう何も考える必要はないのではないでしょうか、総理。ご心配なのは分かりますが、あまり深入りしないほうがいいこともあるのです。

 むしろ知らないことのほうが幸せなこともあります。知ってしまって後悔するよりも、知らないままのほうが総理のためになることもあるのです。

 これでも私は総理のためを思って言っているのです。


「私のためを思ってか。では、私がコロナワクチンを接種すると言ったら君はどうする」


 総理、それは危険です。おやめください。総理にワクチン接種など。必要ございません。総理の身に何かあってからでは手遅れなことになります。

 お考え直しください、総理。


「君は私にコロナワクチンを打ってもらいたくないと」


 はい、総理。総理の身に何かあってからでは遅いのです。ですから、ワクチン接種だけはお考え直しください。


「私の身に危険が迫るかもしれないほど危険なワクチンということか」


 申し訳ないことに。さようでございます、総理。コロナワクチンの接種など本来ならば必要のないものでございます。総理が打つ必要などございません。


「それほど危険なワクチンなのか。では、なぜ国民にワクチンを打たせようとする。それほど危険なワクチンをなぜ政府が買い取り国民全体にばらまくような行為をせねばならないのだ。そんな危険な物なら買い取る必要もなければ、あえて国民が打つ必要性もない。それをなぜZが推し進めてくるのだ。疑問で仕方がない」


 総理。それがZというもので、これがAの定めなのです。


「定め。そんな定めは今こそ変えるべきだ」


 いえ、総理。Zに歯向かうなど、もってのほかでございます。必ずや、その報復を受けることになるでしょう。最も危険な相手なのです。甘く見てはいけません。見くびってもいけません。何も歯向かうことなく、ただ従う。それしか我々には手がないのです。それが、この世界の掟でございます。


「国民を危険にまでさらしてワクチンを輸入しなくてはならないとは。こんな矛盾まみれなことがあっていいのか。私には信じがたい。今こそ我々が変わるとき。君もそうは思わないか」


 しかし、総理。下手に我々は動けません。むしろ、もっとA国民を信頼すべきときです。国民にはワクチンを打たないという選択肢もあるのです。すなわちコロナワクチンを打たないという権利があります。A国民の一人一人が今こそ自力で目覚めるときです。ピンチをチャンスに切り替える。今こそA国民の目覚めのときなのではないでしょうか。


「しかし、高齢者へのワクチン接種はすでに始まっている。皆、メディアに染まっている。ワクチン接種後の危機感が薄れていると私は思うのだが」


 総理、そこまで分かっているのでしたら、なぜ先ほどコロナワクチンを接種するとおっしゃられたのですか。総理の一言は世間を左右させる働きがあるのです。発言には重々お気をつけください。どこから漏れるか分からないのですよ。


「君が漏らさなければ、その心配はない。私は打つつもりはないが。しかし、私は総理だ。いつかは国民を代表して打たなければならない日がくるだろう」


 いえ、総理。総理にそんなことはさせません。いざとなれば奥の手を使います。私にお任せください、総理。総理にコロナワクチンなど断固として拒否です。

 しかし、総理のおっしゃる通りそれなりの演出も必要でございましょう。これは、これは。私としたことが。私に良い提案がございます。私にお任せください、総理。


「君に任せるだと。嫌な予感しかしないのだが」


まあ、まあ、総理。そうおっしゃらずに。私に良い考えがございます。そうです。総理としてのパフォーマンスも大事ですよね。総理、ワクチンを打ちましょう。見せつつ隠す。これです、総理。

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