第38話 不正選挙

 はい、総理。

 むしろテレビの発表に納得してしまうのがAの特徴です。Aはメディアが嘘をつくはずがないという思い込みをしているのです。その部分を利用するのです。


「そんな事でうまく行くのか。私には失敗するとしか思えないのだが」


 はい、総理。それだけではございません。投票箱もすり替えます。


「また大胆な行動を。よく考えたものだ。そんな事が可能だとは思えない」


 はい、総理。不可能を可能にするのが私の仕事です。もちろん偽の票も用意させていただきます。


「そこまでしなくてはならないとは。世も末だな」


 はい、総理。あの手この手を使って事実を隠し通すのです。事実を闇に葬り去るのです。


「それではやっている事がZと同じではないか。

 確か9.11の前にZでも不正選挙が行われたと聞いた。だとしたら、私たちの行いもZと同じだ。

 違うか」


 確かにそうですが、総理。これがAのためになるのでしたら本望です。


「君の言わんとしている事は分かるが。手口はZと同じだ」


 ですが、総理。


「もはや国会はZに乗っ取られたのか。Zに乗っ取られたのも同然だ」


 しかし、総理。


「ならば。やってやろうではないか」


 総理。やって下さるのですね。


「心苦しいが、その方法しかないのだろう」


 はい、総理。申し訳ない事に。


「ならばやってやろうではないか」


 総理、ありがとうございます。かしこまりました。


「しかし、今回だけだ。こんな事は今回だけで終わらせたい」


 かしこまりました、総理。このような事態は今後、避けたいと思います。


「Aも染まったな。Zに」


 はい、総理。まさかこのような事態になるとは誰も予想すらしていなかったかと思います。


「国会が国会ではなくなってしまう」


 総理。


「まさか、こんな事態になるとは」


 総理、申し訳ございません・


「君一人の責任ではない。気に負うことはない」


 ですが、総理。私たちが実行してしまうのです。


「分かっている。それも承知の上だ」


 総理。


「今後、Aがどのような方向に行くか。舵取りをせねばならない」


 そうですね、総理。Aを導いていくのは総理です。


「これから私は民間の力を試す。これからどんな事が起ころうが、まずは民間の力を試す。

 国が動くのはそれからだ」


 総理。それでは対応が遅いと叩かれます。


「何が起ころうとも私は違う。Aから叩かれようが何を言われようがAの力を試してみる。まずはAの力を。そして、国の力を」


 総理、大丈夫なのでしょうか。


「大丈夫だ。私は叩かれようが私は私なりの総理大臣を演じる」


 総理、あなた様はお強い方でございます。お強い方になられました。


「今までのような総理の在り方を変えていかなくてはならないのかもしれない」


 はい、総理。私もあなた様のお力に添えるよう努力いたします。


「しかし、今回のような行いは今回だけにしていただきたい」


 はい、総理。二度とこのような事は私も行いたくはございません。


「私も二度と行いたくはない」


 はい、総理。重々承知しております。

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