第34話 震災前
しかし、総理。私たちが今のAのためにできることは一体なんなのでしょうか。何ができるというのでしょうか。
これからのAをどのように作り上げてゆけばいいのでしょうか。Aをどうすればいいのでしょうか。
「やはり八咫烏か」
やはり八咫烏なのでしょうか、総理。
八咫烏は最後にしか登場しないと思われるのですが。それに八咫烏は本当に存在するのかどうか分かりません。
「そうだ。確かに分からない」
総理、存在すら危ぶまれる八咫烏でございます。私にも八咫烏の存在は名前だけしか知らされておりません。その全容を知らないのです。
「そうだな。八咫烏は最後にしか登場しない。最後にしか登場しないと言われている。もしかすると最後まで登場することなく終わりを迎えるかもしれない」
総理。
「八咫烏については分からない。分からないことが多すぎる」
総理、私たちは今後どうしてゆけば良いのでしょうか。もはや私たちの力だけではAをどうすることもできません。
「それを考えるのが私たちの仕事だ。すべては時代の流れだ。時代の流れに任せるしかない」
時代の流れですか、総理。
「Aが自分自身で目覚めてゆくしかないのだ。それを手助けするのが我々の仕事だ。どうAを目覚めさせるか。
今回の件で時代を大きく揺るがす何かが起きるかもしれないし。起きないかもしれない」
総理、何事も起きないということは、ないかと思われます。相手は何しろZなのです。ありとあらゆる手を使い、私たちをいじめぬくのです。
「困ったZだな」
総理。しかし、それがZにとっての常識です。Zの常識なのです。
「こけはむしたはずなのに。まだ何も起きてはいない。こけはむしたはずなのにAは目覚めようとしない」
総理、それは私にも分かりません。
「なぜだ。
こけはむしてはいないのか。むしたはずではなかったのか」
はい、総理。予定ではこけもむしてよいころです。
「そうだろう」
しかし、総理。Aは目覚めるどころか何も気づいておりません。世界には闇世界があることに。Zが存在しているということに。
「なぜ気づかないのか不思議なものだ」
はい、総理。闇の住人の存在に気がついてすらいないのです。世界は闇の者たち、すなわちZによってコントロールされております。この状態がいつまで続くか分かりません。
「いつまでも続いてもらっては困るのだが」
はい、総理。Aは今もまだZの支配下でございます。
「Aが闇の存在に気がつかない限りAは目覚めることはないのか。AがZの存在に気がつかない限りAは目覚めることはないのか」
ええ、総理。その通りでございます。Aが闇の存在に気づき目覚めることがない限り、Aは目覚めることはないかと思います。
AがZの存在に気がつかない限りAは目覚めないのです。
「目覚めの日はいつなのだ。いつになったら世界は変わるのだ」
ですが、総理。
「こんな世界を誰も望んではいないのだ。望んではいないのだ。AはZにコントロールされすぎだ。コントロールされすぎなのだ」
総理。だからこそ私たちはAを目覚めさせる義務があります。義務があるのではないでしょうか、総理。
「しかし、私は今までの総理とは違う。支払う必要のないものは支払わない。これでAが目覚めるのなら本望だ。
本望だと君も思わないか」
確かに。総理のご決意が固いのはよく分かります。こんな方法でAを目覚めされる以外、他に方法はないのでしょうか。あまりにもリスクが大きすぎます。リスクが大きすぎるのです、総理。
「気がつかせるためのメッセージだ。いた仕方がない。もうやるしかない。もうやるしかないだろう」
かしこまりました、総理。総理のおっしゃる通りでございます。しかし、それが歴代総理の宿命のようなものでした。代々何も言わすに支払ってきたのです。
「それも、もう終わらせよう」
これで歴史が変わるかもしれません。総理、覚悟はよろしいですか。
「ああ、もう覚悟はできている。とっくの昔にな」
総理。今回はAを目覚めさせるためにZの要望を断りますが。総理、くれぐれも暗殺されぬようにお気をつけください。
「それはお互い様だ。君も気をつけなくては。裏秘書がいなくなってしまっては事実を知る者がいなくなるということだ。
お互い用心せねばならない」
ありがたきお言葉です、総理。
「では実行に移そう」
かしこまりました、総理。
「私は違う」
総理。ご武運を。
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