第33話 震災前

 総理、こちらが今回のZの要望額でございます。いかがいたしましょう。ここはお支払いすべきかと思います。


「断ろう」


 総理。何を言っているのですか、総理。またそんな事をおっしゃらないでください。相手はZです。Zなのでございます。あらぬことなどを考えず素直にお支払いください、総理。


「お断りしよう」


 総理、ここは何卒よろしくお願いいたします。毎回お伺いを立ててはおりますが。ここは何卒。冷静な判断をお下し下さい、総理。


「お断りしよう。お断ろうと言っている。なぜこちらがそのような金額を支払わなければならないのだ。おかしいと思わないのか。もう何度目だと思っているのだ」


 総理。何をおっしゃっているのですか、総理。ここは冷静にお考えください。断るなどあり得ないことなのです。

 Zの言う事は絶対です。


「あり得ない。なぜあり得ないのだ。あり得ないのはZだろう。毎回、毎回なんだというのだ。こんな額を支払えと言うのか」


 総理。要求金額がやや多めに感じるかもしれませんが、これも歴代総理の宿命でございます。今まで支払ってきたのです、総理。よろしくお願いします。


「額が額だけに、なぜ支払わなければならないのだ。私は支払わない。断ろうと言っている。Zに支払うくらいなら、もっと有効に使ったほうがAのためだ。

 君はそうは思わないか」


 ですが、総理。


「私はAのために言っているのだ」


 総理、あり得ないことを言わないでください。相手を甘く見てはいけないのです。Zの世界ではなんでありなのです。9.11の事を思い出してください。Zはあのような事を平気で行うのです。

 Zとはおそろしい存在なのです、総理。Zに口出しなどもっての外なのです。


「だから言っている。なぜ支払う必要があるのだ」


 総理、そんな事をおっしゃらずに。よろしくお願いいたします。支払わなくては何が起きるか分かりません。何か起きてからでは遅いのです、総理。


「分かっている。分かっているが。

 Zに要求されるのは、もううんざりなんだ」


 総理。そのお気持ち私もよく分かります。分かりますが、総理。総理が思っている以上にZは強敵なのです。

 その点を踏まえたうえで、もう一度お考え直しください、総理。


「断ろう」


 総理。


「お断りさせていただく」


 総理。


「Zからの要請額が激しすぎる。これ以上、支払う必要はないだろう。海外バラマキ金を減らさなくては。減らす必要がある。

 君もそう思わないか。いつまでも。いつまでも、こんな事ではいけないのだ」


 確かに。そうでございますが、総理。


「AはZの犬ではないのだ。Zの犬ではないのだ、Aは。忠実に尽くす犬でも、時には噛みつく。時には噛みつく。そういうものなのだ。

 私は違う。支払う必要などはない」


 総理。


「私は違うのだ」


 かしこまりました、総理。総理がそこまでおっしゃるのでしたら。苦渋の決断ですが、お断りいたしましょう。やや行いが手荒なように感じますが、私もZの要望にはもううんざりしておりました。


「確かに、そうだろう。君もよく気がついた」


 しかし、総理。しかしです、総理。私はZが怖いのです。Zが怖いのでございます。

 断って、もしAに何か起きてしまったとしたら。心苦しく感じます。


「そうだ。相手はZだ。君の言うように何が起きるか分からない。断って何が起きるか。何が起きるか分からない。しかし、それでAが目覚めるなら。それがAのためになるなら。

 だとしたら、本望だ。

 Zの要求を断る」


 総理、本当によろしいのですね。もう後には戻れません。引き返すなら今です、総理。


「構わない。断ろう」


 かしこまりました、総理。その方向で手はずを整えさせていただきます。


「それにしても。なぜAは。なぜAは目覚めないのだ。いつまでもZに従っていてはいけない。AはAの道を進むべきだ。

 こけもむしたころだろう。違うのか。」


 はい、総理。こけもむしてよいころだと思います。

 しかし、Aは目覚めるどころか。

 一体どうすればよろしいのでしょうか。私たちがAを目覚めさせる必要があると思います。


「確かに。我々がAを目覚めさせる必要がある。だとしたら、やはり。ここでZの要望を断ろう。

 これが正しい判断だ」


 しかし、総理。それにはかなりのリスクが伴います。今後、何が起こるか分かりません。将来何が起きてもおかしくはございません。本当によろしいのでしょうか、総理。戻るなら今でございます。


「お断りさせていただこう」


 総理、Zの要望を断るなど本来あってはならない事態なのです。


「構わない。断ろう。それで私はAを目覚めさせる」


 かしこまりました、総理。Aを目覚めさせるためにも。


「Aを目覚めさせるためにも」


 Zの要望を


「断ろう」


 断ります。


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