第31話 郵政民営化

「準備は整った。あとは民営化させるだけだ。

 我々の船が出発する。凶と出るか吉と出るか。あとはA次第だ。

 ここは一旗上げてみせよう。民営化の実行だ。もはや結果は目に見えて明らか。勝利は我々の手の中にある」


 しかし、総理。本当にそれでよろしいのでしょうか。我々の船はもはやタイタニック号です。このままでは沈没です。このような策では明らかにZの思うつぼでございます。

 結果は目に見えて明らかとは。お言葉ですが、総理。私たちはこのような結末を望んでおりません。

 決してこのような結末を望んでいたのではございません。


「私が望んでいるのだ。だとしたら構わないか」


 本気で民営化させるおつもりですか、総理。総理が望んでいたとしてもAは望んでなどいないのです。


「私の望みはAの望みだ。Aの望みは私の望みだ」


 総理、本当にそれでよろしいのでしょうか。総理、恐れながら私は賛成できかねます。民営化など本来あってはない事なのです。手放すなど無謀です。


「国民の支持は得ている。私にならできるであろう。今更何を言っているのだ、君は。引き返すかどうかはAが決める」


 そうは申しましても、総理。先々の事も考えてください。もっとAの事をお考えください。このままではAは沈没です。

 Aは総理が思っている以上に流されやすいのです。


「先々の事を考えて私は言っているのだ。後先考えずに言っているのではない。私はAの真の姿を見てみたい。君はそうは思わないか」


 かしこまりました、総理。

 と、申し上げたいところですが、総理。もっと深くお考えください。郵政民営化です。郵政民営化なのです。


「君は何か不満でもあるのか。私の政策に何か不満でもあるのか」


 いえ、総理。私は総理に不満があるのではございません。政策に納得がいかないのです。

 しかし、総理。心苦しいですが、かしこまりました。その方向で話を進めさせていただきます。


「君はよく分かっているではないか」


 しかし、総理。今ならまだ引き返せます。今ならまだ引き返せるのです、総理。Aを沈没させないでください。よろしくお願いします。


「もう決めた事だ。郵政民営化だ。民営化させよう」


 総理、お考え直しください。私は賛成できかねます。民営化には、郵政民営化には、かなりの混乱が伴うと思われるのですが。

 総理、これは私の思い過ごしではなく率直な意見でございます。総理、無謀すぎます。


「そうだ。その通りだ。郵政民営化にはリスクが伴う。そう。かなりの、だ。君も承知であろう通りだ。無謀以外の何物でもない。」


 総理、でしたら何故それを行うのですか。あえて今、行う必要はないかと思われます。あえて今、行う必要などないのです。


「Aを試す機会だ」


 そんな事を申しましても、総理。今、あえてAを試さなくてもよい事かと思われます。今でなくても構わないのではないでしょうか。


「いい機会だと思わないか。こんな機会はめったにない。

 そして、私には実行力がある。私にならできる」


 総理。お言葉ですが、総理に実行力があるからこそ私は困っているのです。総理、お考え直しください。

 このままでは本当に郵政民営化です。国から郵政を手放すなど無謀です。無謀以外の何者でもございません。

 無謀なのです、総理。


「無謀だ。無謀と言えば確かに無謀だ。

 だからこそ行う価値がある。君はそうは思わないか」


 でしたら何故ですか、総理。無謀だと分かっておりながら行うのは。無謀以外の何者でもございません。

 引き返すのでしたら今でございます。総理お考え直しください。


「ここらでAを試してみようではないか。Aはすでにタイタニック号だと私は思う。一度沈めて建て直す必要がある。沈めるためのいい機会だ。

 君はそうは思わないか」


 はい、総理。私もそのように思います。Aはすでにタイタニック号です。しかし、郵政民営化とは話が別です。郵政民営化とタイタニック号は別問題です。


「しかし、建て直す必要がある」


 はい、総理。Aがすでにタイタニック号だとしたら。やはり建て直す必要がございます。その点は総理に賛成です。

 しかし、本当にそれでよろしいのでしょうか、総理。わざわざ沈める必要はないと思うのですが、総理。今沈めなくとも。いつか沈む日が来ます。


「無謀だがやってやれない事はない。今沈めなくていつ沈むのだ。だとしたら、チャンスは今だ。今しかない。あえて行うとしたら今しかないのだ。あえて行ういい機会だ。

 君もそうは思わないか」


 ですが、総理。郵政の民営化は国から郵政を。国から郵政を手放す事になります。総理もおっしゃる通り無謀以外の何者でもございません。吉と出るか。凶と出るか。私には凶と出るとしか思えません。思えないのです、総理。

 総理、本当にそれでよろしいのでしょうか。


「構わない。手放そう。Aを試すいい機会だ。君もそうは思わないか」


 しかし、総理。そんなにあっさりと手放していいものではないのです。郵政民営化です。郵政民営化なのです。

 もっと慎重にお考えください。Aを揺るがす一大イベントなのです。あっさりと決めてしまうわけにはいきません。


「私もよく考えての策だ。あっさりと手放すわけではない。あとはA次第だ。Aがあっさりと手放すかどうかだ。

 Aがあっさりと手放すとでも。意外と反対するかもしれない。吉と出るか凶と出るか。あとはA次第だ」


 ですが、総理。今のAをそこまで信じていいのでしょうか。今のAをそこまで信頼していいのでしょうか、総理。

 私にはAがあっさりと手放す未来が見えます。見えてなりません。


「私は信じてみたくなった。今のAなら私の思いに気づいてくれる。気づいてくれるとそう信じている。今こそAの真の姿を見せていただきたい。

 私はAの真の姿を見たいのだよ。Aの実力を見せていただきたい」


 ですが、総理。まだ時間がございます。

 Aの姿など、もはや泥船なのです。ここはもっと時間をかけて見直しを行ったほうがよいかと思います。お言葉ですが、総理。郵便や保険をまとめて仕事をしている方々に別々の仕事をさせてしまう事になります。本当にそれでよろしいのでしょうか、総理。


「構わない。私は構わないと言っている。吉と出るか凶と出るか。最後の判断を下すのはAだ。Aなのだよ」


 総理、郵政を民営化してしまっては。それでは郵便物を届けるついでに話をする聞く時間がなくなってしまうのではないでしょうか。田舎では大変な事態になりかねます。郵便物と金融を分けてしまっては人手不足になるかもしれないというリスクがあります。


「確かに。それなりのリスクは伴う」


 総理。それに加え、郵政を手放した国での成功例など聞いた事がございません。


「分かっている。分かっているつもりだ。それでもAならば、その点はうまくやってくれると私は信じている。

 大丈夫だ。Aを信じてみよう。私はAを信じてみたくなった」


 総理。確かにうまく行ってくれるかもしれませんが。総理、無謀です。

 例えうまくいったとしても、それなりのリスクは伴います。総理も先ほどおっしゃったではないですか。

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