第30話 暗殺計画

「さすがだ。

 とでも言いうと思ったか。何故その写真を」


 防犯カメラでございます。不意を突かれましたね。そういった表情をしておられます。

 動揺を隠せない。違いますか。


「なかなかいい仕事人だな。君も気をつけたまえ。Zの世界ではなんでもありだ。Zに狙われたら最後。どうにもならんぞ」


 Z何故それを。何故それをあなた様が知っているのですか。知られるはずなど。知られるはずなどあり得ません。


「どうやら今度は君が動揺を隠せないようだな。

 だから言っている。気をつけたまえ」


 それは総理と裏秘書だけの暗号のはずでございます。知るはずなど。知られるはずなどございません。


「よく言い切れたものだ。漏れない自信があったのだな。まだまだ詰めが甘いな。だから言っている。気をつけたまえ」


 まさかあなた様が総理を手に。


「そんなはずはないだろう。君も知っているはずだ。Zの手口を。そして、Zにのまれた者の手口を。

 立場が逆転したな。君も気をつけたまえ。君のほうこそ気をつけたまえ。これ以上の深入りはしないほうがいい。潔く身を引け。それが一番の最善策だ」


 お待ちください。事の真相を。事の真相を私は知りたいのです。

 何故総理が。何故総理が狙われたのでしょうか。何故総理がZに狙われるような事をしてしまったのでしょうか。

 私は。私は総理から何も聞かされておりません。


「申し訳ないが、私も詳しくは知らんのだ。やるとしたらZだろう。Zの外に誰が総理を狙う必要があるというのだ。それ以外は考えられないと私は思うのだが。

 君もそれくらいの想像はつくはずだ。裏の世界は深いのだ。君が思っている以上にね」


 そんな。何故Zが総理を。理由が。私には理由が分かりません。何故総理が。何故Zに。総理は一体何をしようとしていたのですか。何故狙われるような危険な真似を。


「裏にはZがいる。Zがいた。

 それだけだ。

 おそらく総理としてはAを変えたかったのだろう。これはあくまでも私の推測だが、Aをタイタニック号にはさせたくなかったのだ。誰だってそう思うだろう。しかも総理になって大方の事実を知るのだ。なんとしてもAを救いたかった。なんとしても救いたかったのだろう。正義感あふれていた総理だ。

 そういう総理ではなかったか。総理はそういうお方ではなかったか。君にも心当たりはあるだろう。総理はAを守りたかった。ただ守りたかっただけだ。

 私はそう思う。」


 そうですか。ありがとうございます。

 あなた様は私の知らない総理の一面を知っていらっしゃるのですね。私が知っている総理も確かに正義感あふれていらっしゃいましたが、まさか総理一人のお力でAを変えようとしていたとは。そこまで気がつきませんでした。

 私の不行き届きでございます。あえてZに逆らうような真似を総理自ら行ってはいけなかった。そして、それを止められなかった。

 私の責任は重いです。


「君がそこまで思い詰める必要はない。総理は君に隠していたのだ。君に知られたくない事実が裏にあったのだろう。君には知られたくなかったという事だ。

 君を巻き込みたくなかった。総理はそう考えていたのではないか」


 そんな。総理が。せめて私には。せめて私には全てを打ち明けてくださればよかったのに。


「君の気持も分からなくはないが。

 総理の気持ちも考えてやれ。君まで狙われたら元も子もないのだぞ。総理は君を守ったのだ。私はそう思う。

 だったら君は、もっと自分の事を大切にしろ。決して狙われるわけにはいかないだろう」


 ありがとうございます。そこまで考えてくださっていたとは。

 総理の無念いつの日か必ずや晴らします。Aをタイタニック号になどさせません。例えタイタニック号でも必ずや救います。


「意気込みだけは一丁前だな。

 しかし、今回のことにこれ以上首を突っ込むな。相手はZだ。相手がZだという事を忘れるな」


 ご忠告ありがとうございます。

 ところでお尋ねしますが。Fあなた様はご存じですか。


「私も一応知っている。Fと呼ばれるものがあることを。

 君もよく知っているな。さすがだ。さすが裏を知る者だ。裏を知る者だけあって優秀だ」


 そういうあなた様こそ何故知っているのですか。さすが優秀でございますね。その言葉そっくりお返しさせていただきます。

 あなた様はどこまでご存じなのですか。Fが何であるかを知っておられるのですか。当然ご存じかと思いますが、あえてお聞きしたいと思います。


「もちろん知っているつもりだ。正しい答えかは分からない。そこまで詳しくは知らない。

 しかし、確かに存在すると思われる。今回の件で使われたとしたらFはやはりただものではない。

 Fとは脳梗塞を引き起こすと言われている薬だ」


 さようでございます。私も同じ意見でございます。Fとは脳梗塞を引き起こすと言われている薬です。


「しかも確実に。

 違うか」


 やはりよくご存じでございますね。その通りです。Fは脳梗塞を確実に引き起こす薬だと言われております。何故脳梗塞を確実に引き起こす事ができるのか。その仕組みは謎ですが。Zのことです。HIVを作ったZなら脳梗塞を確実に引き起こす薬を作っていたとしても、なんらおかしくはないです。


「だが、しかし。だが、しかしだ」


 しかしですか。しかし、なんでございましょう。


「その薬が実際に使われたかどうかまでは私も知らない。いつどのタイミングで総理がFを飲まされたのか。私には分からない。そこまで私も知らない。

 実際に使われたかどうかは不明だ」


 さようでございますか。Fの可能性が低いのでしたら別の方法が考えられます。私の知る限りでは空でしょうか。空での件のほうが有力なのでございましょうか。

 Fより空の可能性のほうが低いと私は思うのですが。


「空ねぇ。私もその可能性のほうが低いと思うが。空は無謀過ぎるだろう」


 空の件をどこまでご存じなのですか。空で話が通じるのですから、あなた様は相当な者でございますね。

 一体どこまでご存じなのですか。


「総理がヘリに乗せられた話だろう。君もよく知っている事だろう。有名な話だ。何をいまさら言っている」


 さすが話がお早いことで。何ご冗談を言っているのですか。あなた様がそこまでご存じとは。まるで私が役立たずのようではございませんか。よくご存じでいらっしゃいますね。


「まぁな。空の件で話が通じるくらいには知っている。空で何が起きたかまでは知らないが。それは君のほうが詳しいのではないか」


 総理にあのような残酷な事を行うなどもってのほかでございますが、なにしろ相手はZでございます。油断も隙もありません。

 総理にそこまで行ったとは思えませんが、無きにしも非ずではないかと私は考えます。


「確かにそうだが。しかし、いくらZでもそこまでするとは思えない。

 君は空だと思うのか」


 空の件も考えられるのですが、確証がございません。


「なにしろ相手はZだからな。何を行うか分からない。私もそこまでしたとは思わないが。どちらの可能性も否定はできない。どちらの可能性も否定はできないが。

 君はどちらだと思うのだ」


 さようでございますか。私には。私には分かりかねます。相手はZです。なんでもありの世界でございます。

 私には分からなくなってしまいました。事実もなにもかも。もうなにもかもが分かりません。


「そうか。君は空の可能性もあると思っているのだな。

 だが、しかしだ。だが、しかし。私はFだと思う。確証は持てないがFのほうが可能性としては高い」


 そうなのですか。しかし、あの日総理はヘリに乗せられたとの事でしたが。


「ヘリに乗せられたのは確かだ。

 あの日、総理はヘリに乗せられた。君の言う通りだ。確かにヘリに乗せられた」


 よくそこまでご存じで。あなた様は一体何者でございますか。


「だが、ヘリの可能性は低い」


 そうなのですか。やはりよくご存じで。何故そこまでお分かりになるのですか。


「普通に考えてだ。即死でもしたら、それこそ大変だろう」


 確かに。ヘリだとしたら即死の可能性も無きにしも非ずです。さすがに即死では言い訳もなにもできないでしょう。さすが分析力が違いますね。


「当然の考えだと思うが。総理もヘリから突き落とされそうになったら命乞いをするだろう。命乞いしてZの言いなりになるだろう。Zの言いなりになるはずだ。

 しかし、総理は違った。ヘリから下りた総理の行動が気になるところだ。気になるところだが、私も知らないこともある」


 そうなのですか。確かに。狙われたことは事実です。空にしろFにしろ疑問だらけのように思います。


「確かにな」


 今回の件で、謎多き事が多すぎます。総理は一体何をしようとしていたのでしょうか。


「さぁな。そこまでは私も知らない」


 病院への搬送のされ方もおかしければ、偽名を使って入院するのもおかしい。何故そんな事を行う必要があったのでしょうか。


「さぁな。何か理由があったのだろう。発表したくない理由が」


 脳梗塞でしたら発表を行ってもいいはずです。しかし、何故。偽名を。


「そこまでは知らない。替え玉でも用意するつもりだったのかもしれないが。どうやら失敗したのだろう。

 そう考えたほうがつじつまが合う」


 なにもかもがおかしすぎます。替え玉など。そこまでするとは思えません。


「確かにそうだ。

 しかし、相手はZだぞ。相手がZだという点を忘れるな」


 相手がZだとしても、なにもかもおかしい。おかしいのです。ZとZと言いますが。何故総理がZに。

 総理は何を行おうとしていたのですか。


「確かにそうだが。しかし、あまり首を突っ込まないほうが身のためだ」


 ですが。真相を。


「お互いにな。気をつけろ。周りは敵だらけだ」


 それほどまで。


「君まで暗殺されたら裏を知る者がいなくなる。そうじゃないのか。

 総理はAを助けたかったのではないか。タイタニック号から救いたかったのだよ」


 やはり、あなた様はお詳しいですね。何故そこまでご存じなのですか。


「ただの知識だ。あとは憶測でしかない。

 君とは違う。

 総理がAを本当に助けたかったかどうか。真相はもはや闇の中だ」


 あなた様は一体何者なのですか。


「ただの一般市民だ。それ以下でもそれ以上でもない。ごく普通の一般市民だ」


 そうとは思えないのですが。一般市民がそこまでご存じでいらっしゃるとしたら世も末です。

 違いますか。


「私が何者なのか。君の力があれば、そのうち分かるさ。今ここで知らなくともいいだろう。

 秘密があったほうが夢がある。そう思わないか」


 夢。何を言っているのですか。私はそうは思いませんが。


「私はただのジャーナリストだ。フリーのジャーナリストだよ。それ以上でもそれ以下でもない」


 あなた様がただのジャーナリスト。またまたご冗談を。フリーのジャーナリストがそこまでご存じとは思えません。


「まぁまぁ。私が何者かは深く考える必要はない。

 それより総理だ。総理の件にしても真相は闇の中だ。暗殺されとしたら何もできなかった事に悔やんでも悔やみきれないだろう。だったら、ただの脳梗塞でいいではないか」


 確かにそうですが。


「本当に脳梗塞だとしたら君もそこまで悔やむ必要はなくなる。

 私はそう思うのだが。違うか」


 それは正論です。しかし、事実がおかしいのです。私は見過ごすことはできません。あなた様が知らなければ私は私で調べます。


「真相は闇の中でいいではないか」


 いえ。そういうわけにはいきません。


「気をつけろ。外に漏らすな」


 私がそんな事をするとでも。


「Z忘れてないか。どこから漏れるか分からんぞ」


 ご忠告ありがとうございます。あなた様もお気をつけたほうがよろしいかと存じます。私たちは知ってはいけない事実を知っているのです。


「私は君のほうが危なっかしく思うがな」


 まさか私と総理の暗号までご存じとは。あなた様は相当な者でございますね。あなた様もお気をつけください。相手はZでございます。


「闇は君が思っているより深いのだ。君のほうこそZに気をつけろ」


 再度ご忠告ありがとうございます。お先に失礼させていただきます。


「あぁ、また会おう。どこかでな」


 えぇ、ここではないどこかで。必ず真相を突き詰めてみせます。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る