第27話 1.17
総理、大変でございます。総理。
「なんだ。こんな朝から騒々しい」
総理。失礼いたします。
「君は。久しぶりだな。こんな朝から何事だ。裏方の君がここに来たのだ。何があった」
何があったではございません。総理、ニュースはもうご覧になられましたか。
「いや、まだだ」
では、失礼させていただきます。総理、この部屋のテレビをつけさせていただいて構いませんか。
「構わない。つけたまえ」
ご覧ください、総理。大変な事が起きました。地震です。関西を中心に大規模な地震が発生しました。
神戸で震度6の揺れを観測したもようです。
「これは」
関西の震度です。観測地点が非常に少なく、この震度が正確かは不明です。ただし、広範囲にわたって揺れが起きたもようです。
「神戸で震度6か。神戸か。そんな町中での地震か。深刻だな。大丈夫なのか」
いえ、そうとは言い切れません。まだ全貌がつかめていません。それと、情報が入ってこないのです。テレビとラジオで情報を確認中です。
震源地は淡路島付近。地震の規模を示すマグニチュードは7.2でございます。どう思われますか、総理。
「揺れが広範囲だな。震源地は淡路島とのことだが、津波の心配はあるのか」
報道によりますと、津波の心配はございません。念のため、海岸付近には近づかないよう報道されております。今のところ、津波があったという報道もございません。ただ地震の全貌が。すべてを把握できないのです。すべての連携が上手くいっていないと考えられます。
「連携か。今までに、こんなことはなかった」
総理、冷静にお考えください。神戸で震度6です。その他、広範囲にわたって震度5の揺れを観測しています。京都でも震度5なのですよ。地震の範囲が広すぎます。
「君の言う通りだ。確かに広すぎる」
とんでもない事が起こってしまいました。こんな地震は初めてです。これもZの犯行かと思われるのですが。
「Zの犯行か。突拍子もない考えだ。そうとは言い切れない。君の考えすぎではないか」
そうでしょうか、総理。
「こんな明け方に地震とは。しかし、地震とはいつ起きてもおかしくはない現象だ。自然災害だと考えるのが一般的だ。
それが、なぜ急にZの犯行。つまり、人工地震だと言えるのだ。そんなことはあってはならない」
地震の深さが浅すぎるのです。現在の発表では地震の深さは20kmと報道されております。私も不覚ながら初期の発表を見逃してしまいました。
「初期の発表か。見逃したとしても仕方がない。早朝だったのだ。しかも地震の発生した場所は関西方面だ。今、情報をつかんでいるだけで君は優秀だ」
しかし、問題があります。
「なんだ」
これで当初の発表が震源の深さ10kmだとしたら。人工地震の可能性が高いです。それが、彼らの合図です。
Aは常に狙われているのです。そのことを知らしめたかったのではないでしょうか。私には、そう思えて仕方がないのです。
「何か裏があると言いたいのか。ここは地震大国A。いつどこで地震があってもおかしくはないはずだ。これは自然災害だ。起こるべきときがきて起きた自然災害。誰も予知はできなかった天災だ。ただそれだけのことだ。
人工地震などと言われても信じられるはずがない。それは陰謀論にすぎない」
私も総理の思いと同じく人工地震だとは思いたくもございません。専門家が度々、兵庫で地震が起きると警告をしておりました。
しかし、状況が状況なだけに自然災害だとは思えないのです。
「何か根拠でもあるのか。それとも君の長年の勘か」
勘と言ってしまえば勘です。私の直感が何か引っかかるのです。
「君の直感が普通ではないと告げていると」
はい、総理。これほどまで広範囲にわたる地震をかつて経験したことがあるでしょうか。前代未聞です。もしこれが現地調査で震度7だと判明した場合、観測史上初の出来事になります。そんな大規模な地震は経験がございません。被害が大きすぎます。狙われた可能性も否定できないのではないでしょうか。
「もしこれが人工地震だとしたら。なぜ狙われる必要があった」
お言葉ですが、総理。相手はZです。いつなんどき狙われてもおかしくはございません。それが我が国Aです。彼らを甘くみてはいけません。人工地震はかつてから存在していました。今は昔、戦時中から存在しているのです。
総理はご存知でしたか。
「いや、当時の事は」
総理もまだ幼かった頃ですから。仕方がありません。
戦争当時、地震兵器は当然のごとく使用されていました。恐るべきことに、人工地震の犯行予告として、相手国は空からビラをまいていたのです。
狙われた多くは軍事工場でした。人工地震で軍事工場を狙い、建物を破壊してAの戦力をそいでいったのです。それは隠された歴史上の事実です。
人工地震は戦時中から兵器の一部だったのです。
「それが現在でも使用されたと」
そうとしか考えられません。深さ60kmくらいまでの地震を浅層地震と申しますが、今回の地震の深さは20kmです。浅すぎると思いませんか。
深さ10kmの地震は人工地震の可能性が高いのです。
「それがZからの暗号みたいなものか。犯行声明と思われる暗号を見せつつ、何かを悟ってもらいたい。それがZか」
おっしゃる通りでございます。Zも何も気づかれないのは嫌なのです。どこかしらにヒントを残したいものなのです。
「そうすると深さ10kmは」
深さ10kmの地震は人工地震だと言っても過言ではございません。ヒントは一番初め報道に隠されています。そこから訂正されるのです。そして、真実は隠されます。
「しかし、今回はその肝心な最初の報道を見逃したと」
申し訳ございません、総理。私としたことが。第一報を見逃してしまいました。
「仕方がない。早朝に起きた地震だ。私も見逃している。現在の発表は深さ20kmだったな。確かに。浅いな」
その通りでございます。浅すぎます。今はこんなことを考えていても仕方のないことかもしれませんが。
「時すでに遅し。すでに起こってしまった。未曾有のことが起きてしまった。情報もない。連携も取れていない。震度の割りにはテレビによる被害報告も少ない。
一体、どうなっているのだ。これで震度7はあり得ないだろう」
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