第22話 平成元年

 総理、お言葉ですが。総理、その気持ちは痛いほど分かります。しかし、相手はZです。何を起こすか分かりません。そしてZの浸透力はもうAの脳内に染み込んでいるのです。

 考え方を変えてゆくには時間もかかりますし、誰も自分の考えを変えようなど思いません。自分自身の考え方を変えることは自分自身にしかできないのです。

 操作された考え方が染みついた脳内を変えるなど並大抵の努力でも通用しないかと思われます。


「いつの間に、こんな世の中になってしまったのか。Aはいつの間にこうなってしまったのか。何故、こんな事態になったのだ。いつの間に。いつの間に。AはZに乗っ取られたのだ」


 総理、心中お察しいたします。私ももう言葉が朽ち果ててしまいました。Zの支配力は目に余ります。しかし、私たちも私たちです。私たちの行いが許されるべきものではございません。隠ぺい工作など本来あってはならないことです。手口は違えどZと同じです。私たちはZと同じような行為を行ってしまうのです。


「お互い行きつくところまで行きついてしまった。Zと同じか。確かにな。私たちはZと同じようなことを行ってしまう。しかし、これがAのためになる行為だと思い実行する。Aのためを思っての行為だったと見抜いていただきたい」


 はい、総理。私にもようやく見抜く力がついてきたところでございます。この世界の構造がようやく分かってきました。世は常にZに支配されていました。これが地球の歴史です。私もようやく分かるようになってきたところでございます。

 Aの皆様にも見抜く力をつけていただきたいものです。


「そうだな。見抜く力が必要だ。見抜く力こそが重要だ。時代の事実を。裏に隠された時代の事実を。事実は常に隠される。

 そして、私たちも事実を隠す」


 はい、総理。私は事実を隠します。Aには事実を見抜く力が必要かと思われます。しかし、私は事実を隠します。総理、陛下はもうご危篤状態です。手の施しようがもう何もございません。


「分かった。実行しよう。事実の全ては闇の中だ。報道も含めて事実を隠し、とにかく延命治療を行っていることにしよう。事実を知る者は限られた者たちだけにしよう。

 そのための根回しをよろしく頼む」

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