第15話 平成元年


「知識がない。そんな話では済まされないのだ。トップクラスの医療チームが知識不足によって、まさかの陛下に。まさかの陛下に医療ミスなど。そんなことがあっていいのか。

 なぜ輸血を行ったのだ。知識がない。知識はなくとも危機回避は重要だろう。輸血にはそれなりの危険性がともなうことは医学の常識ではないか。

 今更だが、陛下に輸血とは。なんたることだ。輸血性ショックを起こすなどなんたる失態」


 輸血性ショック、です。


「陛下の治療には、まさかの事態などあってはならなかったのだ。輸血性ショックだとは」


 総理。お言葉ですが、総理。Aの医学はZに染まっているのです。そこまでの判断は、やはり経験者でない限り気づきもしなかったのではないでしょうか。

 陛下への輸血がその最大の象徴でございます。私もこのまま、ただ延命処置だけをむやみに行うのは胸が痛みます。

 総理。輸血性ショックの可能性を私たちは、このまま黙っていていいのでしょうか。輸血をやめさせることはできないのでしょうか。


「私たちが口を出すべきことではない。輸血性ショックの可能性など口出しできるわけがない。私たちは医者ではないのだ。例え事実を知っているとしても口をつぐむしかない。

 しかし、年末では」


 年末ではです、総理。今の陛下の状態では、年末まで持つかどうかすら分かりません。今の延命では。今の延命では、延命にすらなっていないのです。

 総理。ここは侍医に知らせるべきです。輸血をやめさせましょう、総理。


「輸血性ショックで助かった例はあったのか」


 いえ、総理。輸血性ショックは医学を志している者でも、ほぼ知らされておりません。総理、輸血性ショックである事すら分からず命を落とされる方々がいらっしゃるのです。助かった例などほぼ皆無かと存じます。

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