第10話 平成元年
総理、やはり陛下のご容態は、あまり思わしくないように感じます。
「そうか」
体重の減少も激しいご様子でございます。陛下は元気そうにお振る舞いなさっていらっしゃいましたが、痩せ細られた陛下を見ると胸が苦しくなってしまいました。
「そうだな。私もお会いして思ったが、陛下はお元気そうにお振る舞いになっていたものの、体形がすっかりお変わりになってしまった。一日も早くご回復することを願ってやまない。
今のままでは、これから私たちはどうすればいいのか。前代未聞の変わり目に入るな」
はい、総理。やはり万が一のことも。
「そうだな。考えねばならなくなりそうだ。それと、報道の規制をしなくてはならない。むやみに知らせるべきではない。大混乱になる」
はい、総理。私も同じ考えでございます。まだ全てを明かすべき時期ではございません、総理。陛下のご容態は簡素に説明すべきかと思います。
「そうか。そのような時がきてしまうのか。ついにやってきてしまうのか。時代の変わり目が」
はい、総理。腹をくくるしかございません。今の陛下のご様子では。いつ何があったとしてもおかしくはないかと。
「そうか。決して陛下にご無理をさせてはいけない。決してだ」
はい、総理。かしこまりました。そのように手配させていただきます。
「その上で準備を開始しよう。発表はまだ早い。心の準備と覚悟は決めておこう。お互い君の言ったように腹をくくるしかない。陛下にはご無理のないよう一日でも長く生きていただきたい。そのための努力を惜しまずに行っていこう」
手術が必要との見解ですが、総理。陛下に手術を行ってもよろしいのでしょうか。陛下に開腹手術を行うなど前代未聞の事態でございます。
「そうだな。陛下に手術など前代未聞だ。手術など初の事態だ。手術の成功を祈るが。今のAの医学は大丈夫なのか。私は医学に精通しているわけではないが陛下に開腹手術を行うとは大事な事態ではないか。
それと手術にはそれなりの体力が必要となる。陛下の体力が心配だ。手術を乗り切れるだけの体力は残っているのだろうか」
はい、総理。私も手術の成功をお祈り申し上げます。本当に手術を行うべきかの判断は私も医学に精通しているわけではございませんので判断がつきません。
しかし、医療チームの見解では手術が必要とのことです。A選りすぐりの医療チームです。ここは信頼すべきかと思います。
「ならば仕方のないことだ。本当に手術が必要なのだろう。
陛下に手術を行うこととなるとは。
予期せぬ事態にもなりかねないかもしれない。手術を行うことは一刻を争う事態になるやもしれない。
心してかからねば。
心してかからねばならい。それが手術を行うということだ。万が一か。その可能性が手術について回るのだ。ついにこの時が来てしまったか。時代が変わるな」
はい、総理。時代が変わります。
「まさか私の代でこんなことが起こるとは。
まさか私の代でこんなことが起こるとは、夢にも思っていなかった」
はい、総理。私もでございます。陛下はまだまだ長く生きられるとばかり思っておりました。体調不良も一時的なものだとばかり思っていたのですが。
どうやら思い違いだったようでございます、総理。
「陛下は、もっと長く生きることはできないのか」
総理、私が思うに、どうやら難しいことのように感じられます。手術が必要との件ですが、総理。陛下に乗り切れる体力があるかどうか。判断が難しく感じます。
一般人の私ですら、そう思うのです。医療チームを信じますが、どこか信じられない自分がいます。
「そうか。確かに一般人の私から見ても陛下に手術を乗り切れるだけの体力が残っているかどうか判断は難しい。
医療チームを信頼すべきなのだろうが、私も同じく。どこか信じきれない自分がいる」
それと、総理。手術が無事成功したとしても、陛下にはご公務もございますし。そこまで回復できるかどうか。
今の陛下に、そこまで回復できるかどうかは誰にも分からないのではないでしょうか。
「そうか。医学が進んだぶん難しさも増したな。一体どうすべきか。どうなってしまうんだ。予測不能の事態ではないか」
はい、総理。私にもまだ判断がつきません。考えたくないのは重々承知の上です。重々承知の上ですが、万が一をお考えになったほうがよいかと、私は思います。
総理、ご決断を。
「では、しばらく様子を見つつ準備を開始しよう。
焦りは禁物だ。
発表はむやみに行うべきではない。発表はまだ早いだろう。陛下のご容態に関しては簡素に伝えるべきだ。
今はまだ。陛下がご回復なされると信じよう。信じたい。」
はい、総理。陛下には申し訳ないですが、内々で準備をさせていただきます。裏方は私にお任せください。
「よろしく頼む」
はい、総理。かしこまりました。
「助かった場合と、万が一の場合。両方の対策を頼む。私は助かると信じている。万が一など。今はまだあってはならない。今はまだあってはならないのだ。なんの準備もまだできていない。」
はい、総理。お任せください。侍医のご見解では助かったとしても、ご公務はご無理ではないかという見解でございます。やはりご無理は禁物かと。
「そうか。陛下には、しっかりとご養生していただきたいものだ。
しかし、ご公務をこなせないようでは」
困った事態になりました、総理。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます