第9話 平成元年

 総理、大変でございます。総理。総理。


「なんだ、慌ただしい。どうしたのだ。君が慌てるなど珍しい。君が慌てる姿など似合ってないぞ」


 総理、天皇陛下が。陛下のご容態が急変したとのご一報が届きました。いかがいたしましょう、総理。


「なに。何があったのだ。陛下のご容態が急変だと。そんなご様子はなかったはずだ。一体どうしたのだ、急に」


 総理、そろそろ覚悟をしていただいたほうがよいとのお噂もございます。


「なに。そんなお噂まで出ているのか。これは大事になりそうだ。一大事ではないか。陛下は、それほどご容態が悪いのか」


 さようでございます、総理。手術を行うべきとの見解でございます。

 しかし、手術を乗り切れるだけの体力が陛下にあるかどうか。陛下が手術に耐えられるほどの体力が残っているとは私には思えません。

 総理、万が一をお考えになったほうがよろしいかと。


「今はまだ内密に。今はまだ内密だ。

 確定しているわけではないのだろ。情報だけを信じてはいけない。とにかく事実の確認を。事実の確認を急げ」


 はい、総理。さようでございます。私としたことが。申し訳ございません。事実の確認を急ぎます。陛下に直接お会いしてまいります。総理、総理もご一緒になさいますか。


「いや。今、君と私が一緒に行くと、ただ事ではなくなる。日を改めて近々予定を調節してほしい」


 かしこまりました、総理。


「私も陛下のお見舞いにお伺いさせていただく。陛下のご容態が気になるな。君はよく観察して陛下とお話ができる状態なら差支えない程度にお話を聞いてきてほしい。

 万が一など、まだ考えたくない」


 はい、総理。私も同じ考えです。


「だが、万が一も考えておこう。とにかく今は陛下のご容態の確認を。確認を急がなくては。私の予定の調節もだ。慌ただしくなるな」


 はい、総理。あとは私にお任せください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る