第4話 プロローグ

 私は知ってしまったがために、私は秘書にならざるを得ません。ならざるを得ないと私は考えております。もはや後戻りなどできません。


 総理。総理にこんなことを直接相談すべきではないことは、私も重々承知の上でございます。


 重々承知の上でお話をさせていただきます。


 総理、私たちは危険な橋の上を渡らなければなりません。どれほど危険な橋か私もまだ全容を知らないほどでございます。


 しかし、私は知ってしまいました。私の知ることは、まだまだごく一部の事実かもしれません。

 私は知らなかったが知ってしまった。知ってしまったが知らないふりをしなければならない。


 総理、とうとう私にも順番が回ってきてしまいました。総理の秘書を務めるという任務の順番が。


 このような事実が隠されていたとは思い及びもしませんでした。秘書になるまで何も知らされておりませんでした。

 しかし、私には知らないふりなど。

 知らないふりなどできません。

 せめて次期総理に。いえ、総理に事実をお伝えしたく存じます。ざっくばらんに話してしまいましたが、まだまだこんなものではございません。覚悟はできておりますでしょうか、総理。


 総理、貴方様はまだ総理ではございません。それでも私は貴方様が総理になってくださることを望みます。総理、どうぞよろしくお願いいたします。


 裏でどんなことが起ころうとも、舞台裏でどのようなことが起ころうとも、私が総理をお支えすることが私の任務でございます。

 全力を尽くさせていただきますが、今はまだ力不足な私をお許しください。私にはもう後戻りはできません。これも順番でございます。ただ順番が回ってきたのです。


 総理、総理にもその順番が回ってきてしまったのです。

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