第三章 荒波ほど胸が躍る

第45話 渇き

 私がVTuberデビューを果たしてから今日でちょうど半年経つ。

 あれから、何という事もなく時は過ぎて行った。

 

 日々の配信はそれなりの盛況をみせ、今では目標のチャンネル登録者50万人を超えて、極東ミネネチャンネルの登録者数は55万人。

 さらに、三ヶ月前に立ち上げたファンクラブの会員数は既に2500人を超えている。

 月額500円プランが2000人、1000円プランが500人。

 これだけで売り上げで言えば月々150万円だ。もちろん諸経費を引いて利益で見れば額は落ちるが、収益は他にもある。

 動画の広告再生で得る利益に、最近になって来るようになった案件の利益額を合わせれば先月は楽に250万以上稼いだだろう。

 どちらか一方の中間目標をクリアできればいいところ、私は両取りできたわけだ。


 もちろん、これは極東ミネネだけの利益。

 これに極東ヒカゲの利益を合わせれば、矢崎たちもニッコリの金額だろう。


 何も申し分のない結果。

 如何に矢崎と言えども、文句のつけようもないはずだ。

 私は提示された仕事以上の成果を叩き出した。


 だが――――。


「刺激が足りねぇな……」


 私は既に今の日々に満足できなくなっている。

 

 

「……あと100回」


 ブスくれた顔で私に話しかけてくるエマ。


「ゴメン、そっちの話じゃない。トレーニングの刺激は充分だから……」

「…………」


 エマから無言の圧が掛かる。

 

『喋る余裕があるならトレーニングを続けろ』


 きっとそんなことを思っているに違いない。

 

 今でも『極東ミネネアイドル化計画』は継続されている。

 週に一度の顔出しレッスン配信に加えて、毎日の虐待。もとい、エマ教官による指導。

 日々の教育の成果は確かで、私はそれなりに歌が上手くなっている実感があった。

 

 何よりも、歌配信中に流れるコメントの内容が一目瞭然に変化している。

 嘗ては下手な私を応援するコメントや、面白がっているコメントが大半だった。

 けれど、最近では私の成長を称賛するコメントが目立つ。

 初配信のヤケクソ歌企画を知る古参勢は腕組みして頷いていることだろう。


 それでも、まだまだエマの隣で歌声を披露する気にはなれないが……。

 

 エマの方は凄い。なんと音楽レーベルから声が掛かっている。

 素人の私でも、エマのレベルの高さは理解できる。

 聞く人が聞けば、もっと伝わるものがあるのだろう。

 企業から、曲を提供するから歌って欲しいと言われているんだとか。

 ヒットすれば、そのうちエマの歌声がテレビに流れるかもしれない。


 私も、エマも、それぞれが成果を出して良い波に乗れている。

 危なげがなく、快適な波だ。


 正に、順風満帆な日々。

 

 それが、非常につまらん。

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